BL◆父の肖像
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プロローグ
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 桜が満開だった。
 玄関を出た成島拓見(なるしま・たくみ)は、門の手前で靴紐を結びなおし、身を起こすついでに空を仰ぎみた。
 まだ少し冷たい空気の間から、暖かな春の陽射しが降りそそいでくる。空は水色に似たやわらかな色をしていた。
 首を戻し、詰襟の具合を指で調節しながら歩きだす。と、二、三歩進んだところで立ちどまり、何かを気遣うように玄関の方を振りかえった。
 その目に一瞬かげりがさしたように見えたのは、光のいたずらだったかもしれない。
 もう一度向きを変えたときには、彼の顔はいつもの屈託ない表情を浮かべていた。
 歩いていく彼を追うように風が吹いた。桜の花びらがはらはらと舞いおちた。
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まろやか連載小説 1.41