BL◆父の肖像
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 拓見の通う中学校は、T市のやや西寄り、市街地から少し外れた新興の住宅地域にある。生徒数は多いが、受験勉強も部活動もほどほどという、比較的のんびりした学校だ。
「あさっては小テストを行うからそのつもりで。では今日はこれまで」
 古参の教師が出ていってしまうと、たちまち教室じゅうに不満の声が湧きあがった。
「くそォー、片岡の野郎。新学期早々、テストなんてやることないじゃんかよォ」
 教科書を雑巾のように絞りながら、湯川雅俊(ゆかわ・まさとし)が唸る。
「マーくん、落ち着いて。教科書に罪はないよ……たぶん」
 くすくす笑いながら口を挟むのは村野久美子(むらの・くみこ)。
「そうそう。あんまり怒ると腹減るよ」
 教科書を片づけてから、拓見も会話に加わる。
「うるへー! これが怒らずにいられるかーっ!」
 雄叫びを上げる雅俊の姿に、拓見と久美子は顔を見合わせてぷっと吹き出した。
 三人は幼稚園のころからの幼なじみだった。途中クラスが別になったりもしたが、中学三年生の今日まで、たいていいつもいっしょに行動している。
 わんぱくだった雅俊は、最近急に背が伸びはじめ、顔つきもぐっと精悍になってきた。久美子は思春期の訪れとともにしとやかになり、早くも大人の雰囲気を醸し出している。
 それに比べ、拓見は少しおくてだった。大きな目が印象的な、やさしい顔立ち。体つきも全体的にまだ華奢で、学生服さえ着ていなければ少女のようにも見える。
「ねえねえ、今日、部活終わってから暇?」
「なんだよ村野。寄り道はいけないんだぜ?」
「そうじゃなくってー。こないだ理科部で、ハムスターの子供が産まれたんだって。それで……」
「悪いけど、僕は帰るよ」
 拓見の発言に、ほかの二人は意外そうな視線を向けたが、続きを聞いてなるほどという顔をした。
「……最近、親父がちょっとうるさくてさ」
 拓見は昨年の秋、事故で母親を失っていた。乗用車が歩道につっこみ、ちょうど通りかかった彼女を巻き添えにしたのだ。残された一人息子の行動に、父親が神経質になっているのも無理はない。
「そっか……」
「じゃあ、拓ちゃんはまたこんどね」
 同情のこもった二人のまなざしに、拓見はあいまいな笑みを浮かべて応えた。
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まろやか連載小説 1.41