全快祝いは、父の昭義まで巻きこみ、予想以上の盛りあがりをみせた。
夕食代わりに寿司とピザをとり、雅俊と久美子の家に昭義が断りを入れる。
『あら、すみません。お見舞いに行ったはずが、かえってご馳走になっちゃって』
「いえ、こちらこそ、いつもお世話になりっぱなしで……」
電話を切って、昭義が三人に片目をつぶってみせる。
「オッケー? オッケー?」
「わーい、やったー!」
子供たちに混じって興じる昭義に、拓見は驚きの目を向けた。こんなことは、母の美也子が亡くなって初めて――いや、それ以前にもついぞなかったことだ。
意外な父の姿を見て、拓見はうれしく思った。
食事が終わると、四人は腹ごなしにゲームを始めた。婆抜き、ポーカー、七並べ……と、ひとしきりトランプに熱中したあと、昭義が何を思ったか隠れん坊をしようと言いだした。
「この家は広いから、隠れる場所はたくさんあるぞ。どこに入ってもよし。ただし物は壊さないこと。最初の鬼は私がやろう。さあ、いくつ数えようか……」
昭義が目を閉じて数えはじめると、子供たちは歓声を上げて思い思いの方向へ散らばった。拓見はほかの二人の行先を見定めてから、残った方へ向かった。
今の時世、だれもやらないような遊びだったが、それだけに新鮮で、かえってわくわくする。買って知ったる自分の家だ。絶対見つけられないところに隠れてやる。
そう考えて拓見が選んだのは、仏間の奥、今は久しく使われていない空き部屋だった。
母の遺影を横目で見ながら仏間を通り、一人では開けたことのない襖に手をかける。あっけないほどすんなり開いたその向こうは、不要なものを手当たりしだい詰めこんでおく、いわば物置になっていた。
襖を閉め、手探りで天井の電球をつけると、黄色い光の中にぼうっと部屋の内部が浮かびあがった。積みあげられた大小の箱。壁際に重ねて押しやられた本棚。子供用の勉強机。塗りのはげた箪笥。
隠れるのに都合のいい場所を探そうと一歩踏み出した瞬間、肘が何かにあたって、上から物が落ちてきた。
「いてて……」
腰をかがめ、散らばったものを集めにかかった拓見は、拾いあげた冊子の一つを何気なく開いてみた。
古いアルバムだった。まだ若い父の顔がそこかしこに写っている。学生時代のものだろうか、同年代の男女と肩を組んだり、赤い顔をしてグラスを突き出したり――。
「……え?」
その中に思いがけないものを見つけて、拓見は反射的にアルバムを閉じた。
どうしようかと一瞬迷う。
しばらくのち、拓見は明かりを消し、アルバムを抱えてこっそり部屋を出た。