BL◆父の肖像
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「隠れん坊なんて、やらなければよかった」
 長い沈黙のあとの、昭義の第一声だった。
 二人は拓見のベッドに並んで腰をおろしていた。昭義は片手で拓見の頭を引きよせ、遠くを見るような目つきで言葉を続けた。
「久しぶりにはしゃいで……急にやりたくなったんだ。懐かしくて……」
「隠れん坊、よくやったの?」
「うん……父さんの子供のころには……」
 そう言って昭義は目を伏せ、《父》というには似つかわしくない、まだ若い顔を曇らせた。
「ねえ」
 ややあって、拓見が口を開く。
「父さんと市村先生……友達だったんだね」
「そう……昔はね」
「いまは違うの?」
「ああ」
「どうして?」
「それは……」
 昭義は一瞬口ごもった。
「喧嘩をしたからさ。それで、お互い嫌いになった」
 拓見は首を回して昭義の顔を見上げた。彼の口から喧嘩という言葉を聞いたのは、ここ数日間で二度目だった。だが、親しい者同士が交流を絶ってしまうほどの喧嘩というのが、経験の少ない拓見の頭ではちょっと想像できない。
「喧嘩って、なんで」
 拓見の問いに、昭義は即座に答えを返した。
「言いたくない」
 拓見を抱える腕に、ぐっと力がこもる。
「おまえには、関係ないことだから」
 ……嘘つき。
 そう拓見は思ったが、口には出さなかった。
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まろやか連載小説 1.41