BL◆父の肖像
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− 04 −
 母、美也子(みやこ)の事故の知らせを聞いたのは、夏が終わったばかりのまだ暑い日、三時間目の授業の真っ最中だった。
 担任の教師に呼び出され、病院まで車で送ってもらうと、母はすでに逝ってしまったあとだった。顔に白布をかけられた亡骸の傍らで、父が背中を丸めて椅子に腰かけていた。
 身寄りのない母の葬儀は質素だった。弔問客は拓見の知った顔ばかりで、古い知人だとか遠い親戚だとかいう者は一人も来ていないようだった。雅俊や久美子の家族が手伝いに来てくれたのを、拓見はおぼろげに覚えている。
 すべてが慌ただしく、まるで夢の中の出来事のように過ぎていった。
 拓見はまだ現実として捉えられなかっただけなのか、美也子を失ったダメージは父、昭義のほうが大きいようだった。昭義は、それまでほとんど飲まなかった酒を飲むようになった。真っ暗な部屋の中で一人、美也子の遺影を見つめてずっと座っていることもあった。
 そんなある日。居間で酔いつぶれていた昭義に毛布をかけようと近づいた拓見は、伸ばした腕をいきなりつかまれ、あっというまに床に組みしかれていた。
「と、父さんっ……?」
 それまでまじまじと見たこともなかった父の顔が、すぐ目の前にあった。酒臭い息に思わず顔をそむけたそのとき、呟かれた言葉が拓見の耳を打った。
「美也子……」
 昭義の目は、拓見を映してはいなかった。
「美也子……どうして……」
 嗚咽のような声にほろりとした拓見は、だがつぎの瞬間、昭義が何をしようとしているか悟って青くなった。
「ちょ、ちょっと待って、父さん!」
 唇を寄せてくる昭義を押しのけ、立ちあがって逃げようとしたが、足に毛布が絡まって思うように動けなかった。もがいているうちに両腕をとられ、身動きできないように押さえつけられてしまう。
「待って、やめてよ……!」
 悲鳴を上げようとする口に、むりやり唇が押しつけられ、互いの歯があたって音を立てた。
「うっ……ううっ……」
 嫌悪と恐怖に、首すじの毛が逆立つ。
 生まれて初めての経験だった。ガールフレンドと、淡いキスの一つも交わしたことがない。興味津々、拾ったビニ本を同級生たちと回し読みしたことはあっても、性の何たるかもよくはわかっていないのだ。
 服のボタンをはずされ、素肌をじかに撫でまわされた。舌を吸われ、唇を噛まれ、乳首を舐められた。だが、まだ目覚めを知らない肉体にとって、それらはすべて不快なものとしてしか認識されなかった。
「い、嫌だっ……父さん! やめてよ、お願いだからやめて……!」
 目の前にいるのは知らない男だった。欲望に両の目をぎらつかせ、息をはずませて自分の息子を犯そうとしているのは、拓見の知っている父ではない。
 怯えてすくんだ拓見の体を開いて、昭義は自分の怒張を容赦なく打ちこんだ。
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まろやか連載小説 1.41