昭義は、父としても夫としてもほとんど目立たない存在だった。
拓見の記憶の中では、父はいつも、居間で静かに新聞を読んでいるか、仕事場に引きこもっているかのどちらかだった。モデルにされることはあっても、遊んでもらったり、叱られたりといった思い出はない。奇妙なことに、父と母が会話しているところも思いうかべることができなかった。
いっぽう、母はなにかにつけ拓見をかまった。といっても、口うるさく干渉したというわけではない。彼女はいつも、穏やかでやさしく、慈愛に満ちたまなざしで息子を見守っていた。
拓見は母が好きだった。拓見の容貌は母親に酷似しており、そう口に出して言われることも多かったが、彼はそのことを内心誇らしくも思っていたのだ。
だがその母がいなくなって、何かが狂ってしまった――。
「……っ」
秘部に潤滑剤を塗られて、拓見は体をこわばらせ、シーツを握りしめた。
くりかえされる愛撫に、いつしか体は快感の味を覚えたが、この行為にだけはいまだに慣れることができない。
押しひろげられる圧迫感と、突きあげられる不快感。それに、最初のときの苦痛と恐怖が、膠のようにべっとりと皮膚に張りついていて、どんなにほてった体も一瞬で冷ましてしまう。
それでも拓見は父を受けいれた。
あるいはそれは、ある種の同情のためだったかもしれない。
あのとき、あまりの苦痛に気を失ってふと我に返ると、昭義が放心した顔をして、血と精液で汚れたカーペットを何度も何度も拭っているのが見えた。
――……父さん――
思わず声をかけたが、聞こえなかったのか、昭義はなんの反応も示さなかった。
――父さん――
拓見は這いずっていって昭義の膝に手をかけた。答えはなかった。代わりにがっしりした腕が伸びてきたかと思うと、息がとまるほど強く抱きしめられた。
二人は言葉もなく、互いの温もりを確かめるようにしばらくそのままでいた。