BL◆父の肖像
1 − 06 − * * * 五月を前に、美術の教師が産休に入り、新しく別の教師が赴任してくることになった。 「……だからさあ、ホントなんだってば。一度見てみれば……」 「そんなこと言って、あんた大げさなことばっか……」 「そうじゃないんだって。さっきそこでねえ……」 「ああもう、わかった、わかったから……あっ、シーッ! ほら、来たわよ」 いつもにまして騒がしい教室が、突然水を打ったように静まりかえる。がらりと戸を開けて入ってきた人物に、全員の視線がいっせいに集中した。 「ウソ……」 「おい、あれ……」 かすかなどよめきが、さざ波のように広がる。 「拓見……拓見」 後ろの方から雅俊がつついてきたが、拓見は振りかえらなかった。声を上げないようにするのが精一杯だった。 「清水先生の代わりにこの授業を受けもつことになった、市村満(いちむら・みつる)です。しばらくの間ですがよろしく」 慣れたしぐさで教壇に立ったその男は、拓見と瓜二つの顔に微笑を浮かべてそう言った。 |