BL◆父の肖像
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「今日、清水先生の代わりの先生が来たんだけど」
 夕食の席で、拓見は父にそのことを話した。
「ちょっとびっくりした。その先生……母さんにそっくりなんだ」
 昭義は口を動かしながらちらりと拓見を見た。
「なんだ、また女の先生なのか?」
「ううん、男の人。市村満っていうの」
 反応がないので拓見が顔を上げると、昭義は箸で突きさした里芋を神妙な顔つきで眺めていた。
「くそ……焦げてる」
「えっ、そう? でもおいしいよ」
「料理ってのは、一朝一夕でうまくなるもんじゃないなあ」
 なんとなくはぐらかされた気がして、拓見は父の顔をじっと見つめた。
「ねえ」
 目を離さないようにしてきく。
「母さんて、親兄弟、一人もいないって言ってたよね」
「うん……」
 昭義は芋を口の中に放りこみながら答えた。
「兄弟はいないし、両親ともとっくに墓の中だ」
「父さんは?」
 昭義は一瞬動きをとめた。すぐに素知らぬ顔をして汁椀に手を伸ばす彼に、拓見は畳みかけるようにきいた。
「父さんの親戚は? やっぱりみんな死んじゃってるの?」
 つねづね不思議に思いながらきけずにいたことだった。記憶にあるかぎり、拓見はこれまで親戚づきあいというものをしたことがない。いまどき核家族は珍しくもなかったが、それにしても、年賀状一枚のやりとりもないというのは少し不自然だった。
「死んだわけじゃないが……似たようなものだな」
 しばらくして昭義は、不承ぶしょうという感じで言った。
「昔……父さんは家族と大喧嘩したんだ。だからもう会えない」
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まろやか連載小説 1.41