だれかの手で体に毛布がかけられるのを、拓見はぼんやりと感じとった。
「じゃ、俺も帰るから」
サトシの声が言った。
どうやらほかの三人はすでに帰ったあとらしい。自分がいつ眠ってしまったのか、拓見は思い出せなかった。
「泊まっていかないのか」
とスドウの声。
「そいつがいる」
「大丈夫……よく眠ってるさ」
ドアに鍵のかけられる音がした。しばらくごそごそと物音が続いたあとで、電灯を消したのだろう、あたりが急に暗くなった。
寝たのかと思っていると、じきにこんどは別の音が聞こえはじめた。不規則な衣擦れの音。マラソンでもしているような激しい息遣い。
拓見は寝たふりをしたままそっと目を開けた。布団の上で重なりあった輪郭が、星明かりにぼうっと浮かんで見えた。四本のしなやかな腕が、魚の尾のように妖しく光りながら互いに絡みついている。
驚きはそれほど感じなかった。今日一日いろいろなことがありすぎて、感覚がすっかり麻痺しているようだった。
二人の交接を間近に見つめながら、拓見は自分の知らない過去に思いをはせた。
市村と父、そして母の関係について――。