どこをどうやって歩いてきたのか、気がつくと拓見は、夕焼けに染まりはじめた橋の上を、足をひきずるようにして歩いていた。
足をとめて欄干にもたれ、見るともなく川面に目をやる。濁った流れの下で長い水草が絡みあっていたが、拓見の目に映っているのはその様子ではなく、先ほどのショッキングな光景だった。
微妙な角度で傾けられていた市村の頭。その陰になった昭義の顔。拓見の位置から直接見ることはできなかったが、二人が唇を合わせているのは明らかだった。
唇を合わせ――口づけしていたのだ。
はじめはわけがわからなかった。時間がたってようやくその意味が頭に浸透してくると、驚きよりも不愉快さがじょじょにふくらんできた。不愉快……何が?
そこまで考えたときだった。
「あれぇ?」
ふいにすっとんきょうな声がかかり、拓見はぎくっとして振りかえった。
「成島じゃねえか。部活サボって、こんなとこで何してんだ?」
同じ部の佐藤信也(さとう・しんや)だった。学年はいっしょでもクラスが違うので、そう親しくはしていない。ちょうど学校帰りなのだろう、佐藤は両手に、それぞれ学生鞄とスポーツバッグをさげていた。
「別に……」
拓見は言い訳もせず、愛想のない返事をした。
「ふうん」
佐藤は寄ってきて拓見の横に並んだ。
「俺はまた、飛びこもうとでもしてるのかと思った」
あながち見当違いというわけでもなかったので、拓見は体をこわばらせ、わざと茶化すように言った。
「……ばか言ってら。こんな浅い川にか?」
「ウチに寄ってかないか?」
佐藤は唐突に言った。
「俺んチ、すぐこの近く……親は二人とも仕事で遅いし」
辞退しようとして拓見は思いなおし、探るように相手の目を見た。
佐藤は何も言わず、来いよというように顎をしゃくると、先に立って歩きはじめた。拓見も黙ってあとに続いた。