BL◆父の肖像
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− 08 −
 少年たちは裏口から外へ出ると、何も言わずに同じ方向へ歩きはじめた。
 大通りから脇道に入り、いくつか角を曲がるうちに、街の灯りからも喧騒からも離れた薄暗い路地裏で、拓見はすっかり方向感覚を失っていた。
 拓見に来いと言った少年は、いまは手を放し、黙って拓見の横に並んでいた。四人の中でいちばん背が高く、元来無口なのかほとんど口を開かなかった。ほかの三人は少し前方を歩きながら、他愛もないことを言いあって笑ったり怒ったりしている。
 拓見は途中、何度も逃げようかどうしようかと迷った。この四人は、拓見が日ごろつきあっているような無害な人種ではない。このままいっしょに行って、いいことがあるとは思えなかった。だいいち、彼らがどういうつもりで拓見を同行させているのかもわからない。
 結局拓見を踏みとどまらせたのは、どうにでもなれという捨て鉢な気分だった。
 家には帰りたくない。先ほどのキスシーンを思い出すたび、不快感と苛立ちが募ってくるようだった。父に裏切られたような気持ちがした。市村と父との口づけがこのうえなく忌まわしいものに思われ、それに自身を重ねあわせると、自分までもがひどく汚らしく感じられるのだった。
 どうせ汚れてしまったのだから、どこまで汚れても同じだ。
 そんな拓見の心境にふさわしく、いつのまにか一行は、汚れてみすぼらしいアパートの前で足をとめていた。例の無口な少年が、ポストの下に貼りつけてあった鍵を使って解錠し、全員が入るまで外でドアを支えていた。拓見は最後にもう一度ためらったが、背中を軽く押されておとなしく前に進んだ。
 背後でドアの閉められる音が、やけに大きく響いた。
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まろやか連載小説 1.41