BL◆父の肖像
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 そりゃあただの他人の空似だよ、と大塚は笑って言った。なんだ、そんなことを気にしていたのか、とも言った。
「たしかに、一時は職員室でも話題になったがね。まあ、似てるといえば似てるし、似てないといえば似てない。だいいち、成島はまだ子供で、向こうは大人だ。成島が大人になるころには、別人みたいになってると思うよ」
 それからふっと真顔になって、
「まさか、そのことでいじめでも……?」
 ときいてきたので、拓見は慌てて否定した。
 いささか拍子抜けする思いだった。周りから見ればそんなものなのか。たしかに二人の顔はよく似て見えるが、何から何まで同じというわけではない。見る人によっては、違う部分のほうが気になって、似ているとさえ思わないのかもしれない。
 でも――と、拓見は打ち消した。
 大塚は、母の顔を知らないからそんなことが言えるのだ。市村と母と拓見の顔を並べて見たら、同じように笑いとばせるかどうか疑わしい。
 つぎの生徒が控えていたので、拓見の面談はそこで終了となった。K高については考えてみると約束して、拓見は進路指導室を出た。
 昇降口へ行くと、下駄箱の中にメモが入っていた。
 ――明日の昼休み、屋上に来てください――
 久美子からだった。拓見は一瞥しただけでメモを握りつぶし、近くのゴミ箱に投げすてた。行くつもりはない。
 面談のために、この日の部活動は欠席届を出してあった。拓見はその足で駅裏へ向かった。
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まろやか連載小説 1.41