BL◆父の肖像
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− 03 −
 部活のあと拓見は、更衣室で意味ありげな視線を向けてきた佐藤に声をかけた。
「いまから、どっか行かないか?」
 佐藤は一瞬意外そうな顔をしたが、すぐににやっとして言った。
「いいよ。どこへ?」
「どこでも……時間のつぶせるとこなら」
 いったん帰宅して私服に着替えてから、二人は待ちあわせて街へとくりだした。
 佐藤の提案で、まず映画館に入った。アクションものの洋画がかかっていて、佐藤は前から狙っていたらしく、身をのりだしてスクリーンに見入っていた。
 映画が終わると、拓見は佐藤を誘ってトイレの個室にいっしょに入りこんだ。イッコからもらっていた煙草の箱を取り出し、見よう見まねで口にくわえて火をつける。二、三回軽くふかしてから、そろそろと深く吸いこんでみた。まぎれもない浮遊感が頭を包んだ。
 佐藤に煙草とライターを渡してやると、彼は目を輝かせてそれを受けとり、さっそく拓見のまねをして火をつけた。とたんに激しく咳きこむ。それを見て拓見はほんの少し優越感に浸り、同時にそんな自分を嫌だと思った。
「すげー……煙草なんて、初めて吸った……」
 佐藤が胸をさすりながら言った。
 夕食はファーストフード店で軽くすませた。そのあと本屋を何軒かまわり、そろそろ行き先も尽きてきたところで、拓見はきのうのゲームセンターを思い出した。
「よく来るのか?」
 店に入りながら問いかける佐藤に、拓見は首を横に振ってみせた。佐藤のいぶかしむような視線を無視して、きょろきょろと店内を見回す。
 例の四人は来ていないようだった。拓見は落胆の色を隠して財布を取り出し、佐藤の手に千円札を握らせて言った。
「お手本見せてくれよ……こういうとこの、じつはやったことないんだ」
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まろやか連載小説 1.41