この日イッコは、拓見にしつこく絡んだ。
昨夜のように酒や煙草を勧めてくるまではよかったが、そのうち横にぴったり張りつき、大胆に拓見の体を触りはじめた。
「あんたって、どこもかしこも弱々しくて、壊れ物みたい」
髪の房を指先でもてあそびながら、目を細めて言う。
「こんなんで、よく生きていけるよね」
指が髪を離れ、耳朶から顎の線をゆっくり撫でていく。
「ねえ……あたしみたいな女、どう思う?」
困った拓見は、救いを求めて少年たちの方を見た。だが彼らは故意に視線をそらし、気づかないふりをしている。
「あんた、学校でもてるでしょ」
指が胸元を通り、さらに下へ進んだ。と、落ちるように股間に滑りいり、いきなり拓見のデリケートな部分を包みこむ。
息を呑んだ拓見を見て、イッコはあははと声を上げて笑った。
「女の子みたいな顔してても、つくべきものはちゃんとついてるんだねェ」
それからわざとらしく声をひそめて、
「でも、だったらよけい気をつけたほうがいいよ」
下を向いているサトシの横顔に、険のある視線を投げつける。
「この部屋のヌシは、モーホーだからさ」
サトシはなんの反応も見せず、何も言わなかった。
「それとも、もうヤられちゃった?」
ヒステリックに言って、イッコは拓見を横から押したおした。強引に唇を奪ってから、呆然としている拓見のシャツに指をかけ、手際よくボタンをはずしていく。
「ねェ……気持ちイイことしよーよ」
少年たちはやはり無視しつづけていた。
「あっ、あの……っ」
声を出せるようになった拓見が、ようやく抵抗を始めたところへ、ガチャリとドアノブが回り、部屋の主が帰ってきた。
スドウは中の様子を見ても何も言わなかった。イッコはつまらなそうに拓見から離れ、拓見だけが気まずい思いをして乱れた衣服を整えるはめになった。
あるいはイッコのこうした行動は、ここでは日常茶飯事なのかもしれない。
帰りぎわ、ミチが拓見にそっと耳打ちした。
「イッコはさ、サトシのことが好きなんだよ」