BL◆父の肖像
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− 07 −
 その日拓見は、ゲームセンターには寄らず、まっすぐ須藤のアパートへ行った。
 ポストの下の合鍵を使って中に入ると、須藤は布団の上ですやすやと寝息を立てていた。拓見は起こさないようにそっと枕元を通りすぎ、窓際に座ってじっと須藤の寝顔を見つめた。
 いつもは怖いぐらいに見える彫りの深い顔も、寝ているときは、虫も殺さないような穏やかな表情を浮かべている。洗いざらしの髪が額を隠しているせいで、年齢まで二つ三つ若く見えた。両耳のピアスはつけたままだ。
 視線をはずし、しばらく窓の外を眺めていると、起きだす気配がして、須藤が体をこちらにずらすのがわかった。
 須藤の手が股間に伸ばされたとき、拓見はぴくりと体を震わせる以外、なんの反応もしなかった。つぎに須藤がどう出るかは予想済みだった。わかっていて、待っていた。
 須藤も何も言わなかった。彼は背後から拓見を抱くようにすると、股間に置いた手をゆっくり動かしはじめた。拓見は目をつぶり、両手を畳についた。
 須藤は巧みだった。軽く抱いたまま、その手を動かすことも、唇を這わせることもしない。片手だけを静かに上下させて、拓見をじょじょに、だが確実に追いあげていった。
「ァ……」
 手が離れると、拓見は吐息のような声を漏らした。須藤は拓見のジーンズに指をかけ、そこから拓見の一部を解放した。蜜をにじませたそれを片手で支えるように持ち、もう一方の手で衣服を脱がせにかかる。
 拓見は目を閉じたまま、息をひそめ、じっとしてされるままになった。彼の指がどのように動き、それに自分の体がどう反応するか、一つひとつ皮膚で、耳で確認していった。
 拓見が須藤に身を任せてみようと思ったのは、無粋な表現をすれば実験のためだった。父と自分の関係はなんだったのか、父がどういうつもりで自分を抱いたのか、自分は愛情をいだいていたから悦んだのか、それは父でなければならなかったのか……。
 結果は虚しいものだった。拓見はたやすく燃えてしまった。それも、手慣れた須藤の愛撫で、父とのときよりも強い悦びを感じてしまったのだ。
「あ……あ……もう……」
 須藤はイかせてくれなかった。イったとたんに歓喜は消え、代わりに惨めな後悔の念が押しよせる。まるでそのことがわかっているように、須藤は拓見の持続に力を注いだ。
 後孔に入れられた指は、積極的には動かない。もう一方の手や口による愛撫の加減で、須藤の体が動くと、それにつれてかすかに動く程度だ。指の存在を意識しないではいられないが、それによって強い快感が得られることもない。
 うつぶせにされ、もう一本指を入れられた。甘い疼きが背すじを這いのぼり、拓見は両手で顔を隠すようにして体を丸めた。
「ぁあっ……っ」
 須藤は無言で拓見の体に手を滑らせた。形を確かめるように、人差し指で背骨と肩甲骨をそっとなぞっていく。くすぐったいような感覚に、拓見が思わず体を震わせると、埋められた指が内部を心地よく刺激した。
「……ん……ふ……ぅ」
 やがて指が引きぬかれ、代わりにもっと熱いものがあてがわれた。猛々しい牡が拓見の体を割りひらく。その太さに拓見は呻いたが、それもやはり入りきったところで動きをとめ、満足させてはくれなかった。
「……お願い……」
 拓見は蚊の鳴くような声で懇願した。顔が焼けるように熱くなる。侵入していたものがどくんと脈打ち、それに呼応して拓見のそこがひくりと縮んだ。
 須藤はじらすようにゆっくり動きはじめた。じわじわと掘りすすむようなその感覚に、拓見の牡が痛いほど張りつめる。その根元を指でせきとめておいて、須藤はじっくりと追いたてていった。
「ア……アッ……アッ、アァァ……ァ」
 拓見は額を布団にこすりつけ、両手で顔を覆ったまま涙を流した。つながれた一点から、じっとしていられないような快感がうねりながら全身にまわっていく。
「アッ、アー……ッ……!」
 ひときわ高く声が上がる前に、須藤の手が伸びて拓見の口をふさいだ。
 声は出せない。射精は阻まれている。快感だけが追いせまる――。
 意識が四散し、気がつくと拓見は、真っ暗な部屋で一人、布団にくるまっていた。
 だれもいない。敏たちはどうしたのか。
 枕元に合鍵を見つけて、拓見は須藤の気遣いを知った。この部屋の鍵は二つ。一つがここにあり、もう一つを須藤が持って出たとすれば、ほかの者が勝手に出入りすることはできない。
 しばらくのち、拓見は合鍵をポストの下に戻して立ちさった。
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まろやか連載小説 1.41