BL◆父の肖像
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− 08 −
 敏と肌を合わせたのは、それからまもなくのことだった。
 こんどは拓見が仕向けたわけではなく、ごくしぜんにそういう雰囲気になった。
 敏はそのとき、すでに須藤と拓見の関係を知っていたのだろう。今日はミチたちは来ないと言ったあと、なんでもないような顔をして拓見に口づけした。
 健康な高校生の男子らしく、敏のやり方は性急で荒々しかったが、拓見はかえって気に入った。
 背中に腕をまわすように言われ、拓見は敏の体にしがみついた。乱暴に口づけされながら、激しく腰を打ちつけられた。体は気持ちいいのか苦しいのかわからなかったが、気分は上々だった。
 敏との行為のあとでは、いつものようなやりきれなさは感じなかった。
 それからも拓見は二人との関係を続け、ときには三人いっしょに絡みあったりもした。
 肉欲に溺れる――というのとは少し違うかもしれない。堕ちていくことに伴う被虐的な喜悦はたしかにあった。だが実際には、針で突いて膿を出すような効果のほうが大きかったといえるだろう。拓見は別の男の温もりを感じながら、父のことを以前より冷静に見つめられる自分に気づいていた。
 イッコとも一度だけ寝た。駅の近くにあるラブホテルでだった。彼女のほうから誘ってきたのだ。
 終始イッコにリードされるかたちで、拓見は名実ともに童貞を失った。終わったあと彼女は、拓見の髪を指で梳きながら、珍しくしんみりした口調でこう言った。
「好きな人に振りむいてもらえないのって、つらいよねえ」
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まろやか連載小説 1.41