BL◆父の肖像
TOPINDEX BACK NEXT

− 04 −

     * * *

 夏休みにも部活動はあった。だが三年生はこのころになると、選手を除いてとくに参加しなくてもいいことになっている。拓見もすでに引退していたため、学校にはほとんど顔を出していなかった。
 その日拓見は、ぶらぶらと学校を訪れ、美術室と美術準備室を覗いて市村の姿を探した。ほとんど毎日、美術室で絵を描いていると聞いていたからだ。
 本人は見当たらなかったが、準備室に鞄が置いてあるのを見つけた。そういう場合も考えていた拓見は、用意してあったメモを細長く折りたたみ、鞄の取っ手におみくじのように結びつけた。
 これで見落とすことはないだろう。
 ――知らないままでいたほうが、いいこともある――
 あの夜の、敏の言葉が頭に浮かんだ。
 詳しい事情は知らないはずだったが、拓見の様子から、敏は自分なりに事の重大さを感じとったらしかった。そのへんでやめておけと忠告する彼に、拓見は言った。
 ――でも、疑ってしまったものは取り消せない――
 敏は黙って、しばらく拓見の顔を見つめていた。それから言った。
 ――後悔しないようにな――
 後悔はしない。
 廊下に出て、拓見は決意するように顔を上げた。
 何も知らなければそのままでもいい。だが少しでも知ってしまったからには、もう元には戻れないのだ。すべてを知ったら自分は苦しむだろう。それでも、疑いをいだいて悶々としつづけるよりは――。
 歩きだした拓見の頭上で、乾いたチャイムの音がスピーカーからこぼれおちた。
TOPINDEX≫[ 読んだよ!(足跡) ]
まろやか連載小説 1.41