しばらくのち、父と息子は、汗も拭かず、ベッドの上で裸のまま寄りそっていた。
いまごろになって拓見は迷いはじめていた。何も言わず、これ以上何も知らないままでいたほうがいいのではないか。そのほうが父の気持ちにもかない、これまでの父の努力に報いることにもなるのでは……。
ふと昭義の手が動き、だらりと投げ出された拓見の腕をなぞった。
「会わないうちに……少し逞しくなったみたいだな」
それは事実だった。おくてだった拓見も、ようやく本格的な成長期に入ったらしく、一月ほど前から骨のきしむような違和感を覚えていた。一年近く前、昭義に簡単にねじふせられてしまった体も、すぐに大きく強く――やがては昭義をしのぐほどになるかもしれない。
だが拓見は、いま父が言っているのはそういうことではないとわかっていた。父は、なぜ拓見が急に戻ってくる気になったのか、そのわけを知りたがっているのだ。
拓見は心を決めた。
「母さんは……市村先生のお姉さんだったの? それとも妹?」
しばらくの間、答えは返ってこなかった。だが拓見は待った。父が答えることを確信していた。
「妹だ」
とうとう、溜め息のような声が言った。
拓見は続けた。
「じゃあ母さんは、お兄さんのことが好きだったんだ」
それが、拓見が自分なりに到達した答えだった。それを認めるのは、彼にとってつらいことだった。彼記憶に残る母のイメージは、美しく、純粋で、穢れのないものだったから。
「話して」
拓見は促した。
「何もかも……どんなに悪いことでも、知っておきたいんだ。父さんは嫌かもしれないけど、これは僕自身の問題でもあるんだ」
拓見は昭義の目を見つめた。昭義もその目を見つめかえした。二人は長いことそうしていたが、やがて昭義の唇が動いた。
「ずっと……」
昭義は呻くように言った。
「話すべきかどうか、迷っていた」
そして彼は語りはじめた。