BL◆父の肖像
TOPINDEX BACK NEXT

− 09 −
 それこそが、拓見がもっとも知りたいと思っていたことだった。
 一瞬、室内の空気がすべて凍りついた。
 静寂の中で、まず市村が昭義の肩から手を離した。彼は自分自身の言葉が信じられないというように目を見開き、口を開いて、また閉じた。
 昭義のほうが落ちついていた。彼は身を起こしかけていた拓見を抱きよせ、しっかりした口調で言った。
「いや、拓見は俺の息子だ」
 拓見は二人の顔をゆっくり見比べてから、昭義の腕に触れて言った。
「いいんだ、父さん。僕……だいたいのことはわかってるつもり」
 それから改めて二人の顔を見た。
「市村先生、父さん、ごめんなさい。本当はこんなこと、しちゃいけなかったんだろうけど、ほかに方法を思いつかなくて」
 拓見は、父が核心部分については最後まで隠しとおそうとするだろうと予想していた。市村にきいても、結果は同じだと思われた。二人は同じ秘密を共有し、それについては同じ考えを持っているだろうからだ。
 だが一つだけ、片方が知っていて、もう片方が知らない秘密があった。昭義と拓見の肉体関係だ。それを効果的に暴露してやれば、二人の強固な守りも崩れるにちがいないと、拓見は自分なりに考えたのだ。
 拓見は市村に、時間と場所を指定したメモを渡し、玄関の鍵を開けたうえで、昭義の寝室を訪れたのだった。
「服を着てくる」
 そう言うと、拓見は静かにベッドから滑りおりた。
TOPINDEX≫[ 読んだよ!(足跡) ]
まろやか連載小説 1.41