BL◆MAN-MADE ORGANISM
第1章/人に造られし者 − 12 − * * * 「事故に遭ったんですって? 大丈夫なの?」 久しぶりに大学に顔を出すと、デイルが心配して声をかけてきた。 「ああ、もうたいしたことはないんだ」 ライナーは包帯で巻かれた腕に触れ、軽く叩いてその言葉を証明してみせた。 人造生命体の回復力は格段に優れている。少々の傷なら一日でふさがるし、折れた骨も十日でほぼつながる。ミハイルの呼んだ医者の腕がよかったこともあって、ライナーは十五日ほどで復帰した。 嫌だとごねてみたものの、結局ライナーは、自分を生み育てた組織の中でしか生きるすべを知らなかった。通信手段は失ってしまったが、ライナーの生死が定かでない以上、何らかの方法で組織の方から確認のための接触をはかってくるはずだった。ライナーはそれを待っていた。 「殺人を好まない者を、なぜわざわざ刺客にする必要がある」 ミハイルの問いに、ライナーは答えた。 「慎重を期する仕事にはそのほうが向いている、というのが上の考えだ。殺人をいとわない者は、無意味な殺戮に走りやすい。それに、俺のようなタイプのほうが、従順で裏切らない」 従順で裏切らない。 心の中でその言葉をくりかえし、ライナーは自分を哀れんだ。それは自分が、それ以外の生き方を知らないからだ。そうあることでしか、自分の居場所を見つけられないからだ。そして、それがわかっていてなお、そのようにしか生きられない。 「今度この大学で、医科理科共同の学会が催されるんだって」 講義室の一角で交わされる噂話に、ライナーは思わず耳をそばだてた。 「あちこちの星から、偉い研究者がたくさん集まってくるらしいよ」 星外からの訪問者。もしかしたら、それに紛れて組織の人間がやってくるかもしれない。 そう考えてから、飼い主に尻尾を振る犬のような自分に気づき、ライナーはますます陰鬱な気分になった。 |