BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第1章/人に造られし者
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 シームルグは税関審査が厳しいことでも有名だった。出入りする者は一人残らず――たとえ税関の役人であっても――所持品検査から指紋・網膜の照合、体内透視検査まで受けることが義務づけられている。
 ほんの数分のことだが、ライナーにはひどく長く感じられた。何度経験してもこの一連の検査は好きになれない。絶対にひっかからないとわかっていてもだ。
「ライナー・フォルツさん?」
 ようやく解放されて関門を通過すると、不意に横手から切迫した声がかかった。
「フォルツさんですね? ああ、よかった!」
 同じ年頃の若い女だった。手にした端末とライナーとを見比べながら、安堵の表情を浮かべて小走りに駆けてくる。
「ごめんなさい、もっと早く来たかったんだけど、なかなか抜け出せなくて」
「フォルツです」
 ライナーはいささか面食らって言った。
「わざわざ迎えに?」
「ああ、ええ、実は……ちょっと今、大学に出入りできないので」
 白いローブの裾をはためかせてやってきた女は、喘ぎながらそう言い、息を整えてからもう少し付け足した。
「ちょっとごたごたがあったもので。事情は移動しながらご説明します。とりあえず寄宿舎の方へ」
 寄宿舎へ向かう自走タクシーの中で、女はデイル・ホークスと名乗った。
「爆発事故があったんです。幸いたいしたことはなかったんですけど、警察が来て現場検証やら何やらをしている最中なので、今行っても入れないんです」
「爆発事故?」
 ライナーは聞きとがめて片眉を上げた。
「ええ。原因はまだわからないんですけど、学生たちの実験中に突然」
「失礼ですが」
 ライナーは言葉を選びながら言った。
「つい先日も、同じような事故があったでしょう?」
「ええ、あら、やっぱりご存知でしたか。そうなんです。いずれわかることだと思うので言ってしまいますが、実はこの二回だけじゃなくて……」
「まだほかにも?」
 デイルは深刻な顔をしてうなずいた。
「小さなものならもう十数回。薬品戸棚が倒れたり、ボヤが出たり……それが、あんまり大きな声では言えないんですけど、どの場面にもグローモワ助手が居合わせて……グローモワ助手を狙ったものじゃないかって、もっぱらの噂になっています」
「グローモワ助手……って、確か、セルゲイ・グローモワ教授のお孫さんじゃあ」
「ええ、ミハイル・グローモワ。天才のほまれ高い若手研究者よ。……ああ、フォルツさんもグローモワ教授の研究室に入られるんだったわ。ごめんなさい、変な話をお聞かせして。あの、でも、あなたもお気をつけになって、フォル――」
「ライナーでけっこうです」
「じゃあ、私のこともデイルと呼んでください。私も同じ、グローモワ教授のところの学生なんです」
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まろやか連載小説 1.41