BL◆MAN-MADE ORGANISM
第1章/人に造られし者 − 04 − * * * 死体、死体、死体……。 古いフィルムは飽くことなく死体を吐き出し続けていた。 額を撃ち抜かれた者、首を切り裂かれた者、ばらばらに解体された者……。 戦地で折り重なるように倒れている映像もあれば、狩りの獲物のように並べられ、一つの穴に埋められようとしている映像もあった。捕らえられ、今まさに処刑されようとしている場面もあった。 だがそれらは、その記録の異様さの瑣末な部分にすぎなかった。 本当の異様さは別のところにあった。すなわち――。 映し出された死体は、いずれも寸分違わぬ同じ顔をしていたのだ。 ほとんど銀髪に近い薄い金色の髪。同じく銀色と見紛う青灰色の瞳。彫像のように洗練された鋭利な顔は、苦痛に歪むこともなく、死を前にしてすら傲慢なほど無表情だ。 怯えるでもなく恨むでもなく、自分を狙う銃口を見据えるその冷たい顔に、ライナーは我知らず肌が粟立つのを感じた。 そして何より、同じ顔の死体が幾十と重なりあうさまは、ただ壮絶の一語に尽きる。 「すごいものだろう」 背後の暗闇からの声に、ライナーは唸るような声で答えた。 「……ゲップが出そうだ」 「遺伝子操作と品種改良によって造り出された強化人間――人間兵器とでも呼ぶべきものだ。宇宙開発のための労働力として生み出され、のちに星間戦争の第一線に駆り出された。常人の五倍から十倍近くある運動能力、小型コンピューターなみの記憶力、柔軟な判断力、そして過酷な環境と孤独に耐えうる精神力……」 「なぜみんな同じ顔を?」 「クローンだ。彼らの最後の世代は、ほとんどがある優秀な一個体をもとにしたクローンだった。長い近親交配の結果、彼らの多くは自然生殖が不可能になっていたのだ」 「それで、絶滅したんですか」 「そうではない」 背後の声に苦渋の色がにじんだ。 「人間たちによって処分されたのだ。彼らはあまりにも優れていた。人間は彼らの存在を恐れ、戦争が終わったとき、彼らを永久に抹殺してしまうことを決めた。……それが約百年前のことだ。最後の一体は、五十二年前、開拓途中の辺境の星で処分されたという記録が残っている」 短い沈黙のあと、ライナーは嫌々口を開いた。 「で、俺にこんな骨董まがいの映像を見せたわけは?」 「これを見たまえ」 画面が変わり、つい最近のものと思われるニュース放送の立体映像が現れた。 『……カラ太陽系シームルグの首都アータルで、今日昼ごろ爆発事故が起こりました。場所は王立大学の実験棟で、死者二名、重軽傷者二十三名の惨事と……』 ナレーションとともに現場の立体映像が映し出される。 爆発が起こった直後のものなのだろう、あたり一面もうもうと白煙が立ちこめ、あちこちで小さな炎がくすぶっていた。半ば崩れ落ち、巨大な口を開けた天井。倒れた壁、柱。粉々になったテーブルや実験器具。そこかしこで倒れ、うめき声を上げている人々。瓦礫の間を駆け回り、被害者を運び出す救助隊の面々……。 と、画面の左端で何かが動いた。 倒れていた柱がゆらりと持ち上がり、地響きを立ててもう一度崩れた。巻き上がる砂煙の向こう側で人影がうごめく。一人が、柱の陰からもう一人を引きずり出し、肩に負って歩こうとしているのがわかった。砂煙がおさまるにつれ、彼らの姿がしだいにはっきり見えてくる。 「あ……!」 目が映像をとらえるのと同時に、ライナーは声を上げていた。 煙の向こうから現れたのは、見飽きるほど見たあの顔だったのだ。 白金の髪、銀の目、作り物のように無表情な顔。 石膏像を思わせる男は、負傷者を軽々と担ぎ上げて確かな足取りで進み、画面の右端へと消えた。 「三日前の映像だ」 背後の声が説明した。 「画像解析では、九十七・五パーセント、同じ遺伝子構成を有するものとの結果が出た」 すべての映像が消え、暗かった部屋がいきなり明るくなった。 背後の壁にもたれていた壮年の男は、身を起こすと、眩しさに目をしばたたいているライナーの方へ歩み寄った。 「明朝十時、シームルグ行きの貨物船が出港することになっている。それに間に合うよう準備しろ」 「ちょっと待った。俺に何を……」 「おまえの仕事は一つしかないだろう、ライナー・M・H・フォルツ」 男は子供でもあやすような調子で言った。 「評議会は、彼を処理することに決定した」 |