BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第1章/人に造られし者
− 08 −
「……ここは?」
 寝椅子の上に横たえられるとすぐ、ライナーは薄目を開いて聞いた。
「私の家だ」
 ミハイルは答え、それから聞いた。
「なぜ私をかばった」
「それはこっちのセリフ」
 ライナーはおどけた口調で言い返し、起き上がろうとして断念した。
 思った以上に重傷らしい。
 横になったまま傷口を調べて舌打ちした。左脇腹がざっくり割れている。左腕はもっとひどい。肘の上でほとんど切断され、皮膚一枚でやっとつながっているありさまだ。
 ライナーは右手で左腕をつかむと、力をこめてひきちぎった。
 ごとりと音を立てて腕が床に転がる。
「ライナー……」
 ミハイルが心持ち青ざめてライナーの顔をのぞきこんだ。
「平気だ」
 ライナーは淡い微笑を返した。
「深手を負うと、自動的に痛覚が遮断されるようになってる。血もすぐにとまる」
 まだ納得のいかない顔をしているミハイルのために、もう一言付け加える。
「今どき、人間に人殺しをさせる者はいないってこと」
 落とした腕を持ち上げて断面を見せた。ほとんど人間の腕と区別のつかないそれは、だがわずかに組織の構造が異なり、肉の色も薄い。傷ついた細胞はすでに凝固を始め、血液の流出をくいとめていた。
「俺はM・M・O――MAN-MADE ORGANISM――人造生命体だ」
 言ってからミハイルの反応をうかがった。整った無表情な顔からは、何を考えているのかまったく読み取れなかった。
「聞いて……いいか?」
 体力の消耗からくる急激な睡魔に抵抗しながら、ライナーはろれつの怪しくなった舌を動かした。
「生命とは、何……だ?」
「……亀のせいかな」
 噛み合わない答えに、一瞬ライナーの意識が戻る。
「さっきの答えだ。なぜ君を助けたか」
 ミハイルはライナーの残った手を取り、そっと握り締めた。
「あの亀が死んだとき、君はとても悲しんでいた」
 ライナーは目を閉じた。
「……ライナー!」
 ミハイルでも取り乱すことがあるのか。
 くすりと笑いながら眠りに落ちていこうとしたライナーは、激しく揺さぶられてしぶしぶもう一度浮上した。
「この傷はどうしたらいい? 擬似生命体は専門外なんだ」
「これ以上助けようってのか?」
 ライナーは夢見心地でミハイルの手を握り返した。
「簡単だ。街へ行って娼館づきの医者でも呼んでくれ。……俺の基本モデルは、セックス用のアンドロイド――セクサロイドなんだよ」
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