BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第2章/星を渡る船
− 05 −
 ライナーは両手をつながれたまま、医務室の床にぼんやり横たわっていた。
 床の無機質な冷たさが、ほてった体に心地よい。全身がぬるい溶鉱炉の中に入れられているような感じで、思考は意識の表面に浮かぶ端からどろどろに溶けていってしまう。
 調整作業から解放されて数日がたっていた。官能細胞の植付はひととおり終わり、細胞がなじむのを待って改めて最後の調整をすることになっている。身柄を拘束されてから初めて一人でいる時間を与えられたライナーは、今になってようやく我が身の惨めさを実感していた。
 自分が人造生命体であることは、物心がついたころから知らされていたが、これまで一度としてそのために不平等を感じたことはなかった。親代わりの人間に育てられ、人間の子供たちと一緒に最高の教育を受け、何不自由ない暮らしをしてきた。
 人間に使役されるために造られたのだと言い聞かされ、殺人技術を叩き込まれて好まない仕事に従事してはいたものの、それさえこなせばあとは自由で、むしろ人間以上に大事に扱われていた感がある。
 それが今、すべての権利を剥奪され、人間ではない自分の肉体を思い知らされて、ライナーの精神は恥辱も感じられないほど打ちのめされていた。
 これが現実だ。セクサロイドとして生まれた者の、あるべき本当の姿なのだ。
 朦朧とした意識の片隅に、ときおりデイルの微笑が浮かぶ。
 ――今彼に何かあったら……人類にとって大きな損失と……――
 なぜ彼女はそんなことを口にしたのか。彼女は、ライナーにミハイル暗殺を命じた組織の一員だった。それなのになぜ、ライナーの意志をくじくようなことを言ったのか。
 そしてミハイル暗殺の命令は撤回された。なぜだ。
 答えが浮かぶ前に、思考はいつも溶けて形を失ってしまう。
 熱を持った体がうずき、ライナーが小さく声を上げて体を丸めたとき、出入口のドアが開いて誰かが中に入ってきた。
 担当の医師かと思ったライナーの予想ははずれた。
「よう、気分はどうだい?」
 医師は医師でも、血気盛んな船医のほうだった。
 後ろに五、六人の男を従えて入ってきた船医は、ドアに鍵をかけると、ライナーに近づいて上にかけられていた布を剥ぎ取った。
「これがセクサロイドか?」
 いっしょに入ってきた男の一人が言った。
「たしかに見栄えはいいが、ただの男じゃねえか」
「ただの男に見えるほど上等だってことだよ」
 そう言って船医はライナーの顎をつかみ、一同によく見えるように顔を上げさせた。
「いい顔して、いい声で鳴くんだ、これが」
 男たちの好奇の視線にさらされて、ライナーはようやく状況を呑みこみ、船医の手を払って遠くへ逃れようとした。そのとたん全身に甘いうずきが走り、力が抜けてかえって体を預ける形になってしまった。
「……っ」
「どうした、気持ちいいのか?」
 犬猫をかまうように顎の下を撫でられて、ライナーは快感に喘ぎ、救いを求めて船医の顔を仰ぎ見た。すると船医は怖いほどやさしい笑みを浮かべ、後ろから抱きかかえるようにして耳元に口を寄せた。
「あれだけ悩ましい声を聞かせといて、お預けって話はないよなァ」
 吐息で耳朶を愛撫され、ライナーは大きく身を震わせた。両腕の自由が奪われているうえ、動けば激しい快感で全身がしびれ、抗うこともできない。
 船医はライナーの首に手を当て、輪郭を確かめるように胸から下腹部まで撫で下ろした。そのまま内腿にあてがい、ぐっと押し広げて足の付根をさらすようにする。
「触ってみろよ。生娘みたいな肌だぜ」
 言われてほかの男たちも手を伸ばし、検分するように指を這わせはじめた。
「……や……めてくれ……」
 刺激に身悶えたライナーの懇願は、当然のように黙殺される。肌を撫で回され、足首をつかんで広げられ、体を裏返しにされて隅々まで改められた。
 この陵辱がデイルの指示によるものでないことは明らかだった。デイルはセクサロイド専門医に完璧な調整を命じ、それはまだ途中段階のはずだった。理由がどうあれ、彼女は命令が無視されるようなことは許さないだろう。助けを求めれば必ず救いの手がさしのべられるにちがいない。
 だがライナーはそうしなかった。どのみち最後にはこうなる運命なのだ。そういう思いが、彼からすべての抵抗力を奪った。
 それに何より、体は受け入れたがっていた。
「おやおや、やる気満々じゃねえか」
 早くも立ち上がりかけた中心をつつかれ、ライナーは小さくうめいた。植え付けられた直後は苦痛でしかなかった官能細胞への刺激は、時間を追うごとに変質し、今では明らかな快感として認識されるようになっている。
「ぁあ……」
 甘い吐息とともに潤んだ目を上へ向けると、少し離れて立っていた若い男と目が合った。
「……そうだな」
 男はごくりと唾を飲みこんで言った。
「あのおっかねぇおジョーさまとやるより、こっちのほうがずっと楽しめそうだ」
 船医が両手でライナーの肩を包み、前へ滑らせて胸の突起をもてあそんだ。痛みにも似た快感に、ライナーは首をのけぞらせて体をくねらせた。誰かの手がその首を撫で上げ、誰かの手が両足を固定した。股間に伸ばされた手が快楽の中心を握り込み、また別の手が後ろに忍びこんでなだめるように動いた。
「あっ……あ、あ、あ……!」
 部分部分に与えられた刺激が体の奥で溶けあい、大きなうねりとなってライナーの意識をさらった。撫で回され、舐められ、爪を立てられるうちに、皮膚感覚だけが研ぎ澄まされ、ほかのいっさいの感覚が遠のいていくのを感じた。男たちが口々に何か言っているが、それももうよく聞こえない。ただ快感だけが膨れあがり、絶対的な力で彼を支配していく。
 口に差しこまれた指に、ライナーは夢中で吸いついた。舌を絡めると、うごめく指が表面をこすりたて、とろけるような至福をもたらした。
「いい子だ」
 耳元でささやかれる船医の声が、骨を伝って腰まで届き、股間の高ぶりを追いつめる。奥まったところにとろりとした液体を垂らされ、指を差しこまれた瞬間、電流のような衝撃に打たれてライナーは四肢をつっぱらせた。同時に、はりつめていた高ぶりがあっけなく精を吐き出す。
「いい反応だ」
 顔に浴びた白濁をぺろりと舐めて、船医は満足げに目を細めた。
「中の準備もよさそうだぜ。熱くてひくひくして、ほぐさなくてもとろけちまってる……さあ、誰からいく?」
「俺がやろう」
 赤毛の男が進み出て前を開けた。飛び出した凶器の力強さにライナーはひるみ、反射的に身をよじって逃れようとした。だが背後から船医の腕が伸びて両足を抱え、無防備な体勢のまま動けないようにしてしまう。
「い……っ、いや……だ……」
 太い指が秘孔を探り、続いて熱い塊が押しつけられた。ざわっと肌が粟立ったのは、快感のためなのか恐怖のためなのかわからない。熱の塊は場所を確認するように二、三度口の上を滑り、それからねらいを定めて前進してきた。
「……っ! ……っ、っつ……!」
「暴れるな」
 船医が耳朶をかみながらささやいた。
「力を抜け。どうせやられるんなら、おまえだって気持ちいいほうがいいだろう?」
 否応なしにすぼまりを押し広げられ、異物がじわじわと割りこんでくるのを感じた。自分のものではない熱と脈動に内壁を刺激され、じっとしていられないような快感と恐怖に交互に貫かれる。
「俺はべつに、どっちでもかまわねえぜ」
 赤毛の男がライナーの顎をわしづかみにし、苦悶する表情を楽しむように軽く揺すった。
「いやがるのをむりやり犯すのも好きなんだ」
 力を抜こうにも、どうしていいのかわからない。意識するとかえって体がこわばり、異物の強引な侵攻に逆らって骨がきしむ。と、足を支えていた船医の手が前に回り、ふたたび頭をもたげていた快楽の中心に絡みついた。
「ア……ウッ!」
 達して脱力した瞬間を逃さず深くうがたれて、ライナーは悲鳴とも嬌声ともつかない声を上げた。
 熱く太い猛りが、圧倒的な存在感をもって内壁を圧迫し、自分の鼓動と錯覚するほど力強く脈打っている。
 詰めていた息を吐くと、それを待っていたように突き上げられ、ライナーは今度は明らかな悲鳴を発した。
「アアッ、アッ、アーッッ!」
 目の前で閃光が乱舞した。肛口から奥へとねじこまれるたび、めまいのするような衝撃に意識を打ち砕かれ、逆に奥から肛口へと抜き出されるたび、甘美な違和感に五感を引き裂かれる。
 それが苛烈な官能だということを認識したのは、どのくらいあとだったか。声をからし、涙もかれはて、浅く短い呼吸をすることしかできなくなってから、ライナーは自分が律動に合わせて緩く腰を動かしていることに気づいた。
 こすれる場所によって、強さによって、微妙に異なる性感が体の深奥から湧き上がり、表面に薄く広がってはまた深く染みこんでいく。
「……あ……はぁ……あ」
 目を閉じたまま、腰を大きくずらしてみた。その瞬間、今までとは違うところを突かれ、ふいに走った快感にびくりと背をしならせた。肛口に力を入れると、男の濡れたうめきが頭上からこぼれ、太さを増した肉塊に強くこすられて腰が砕けた。抜き差しに従ってざわめく快感は、奥へいくほど強く、致死性の甘い毒のように肉体を冒していく。
 より強い快感を得ようと、ライナーは自ら腰を上げて押しつけた。快感を与えてくれる異物を逃がすまいと、手繰り寄せるように内壁をうごめかし、締めつけた。
「す……げェ……」
 赤毛の男は喉を鳴らしてうなった。ライナーの動きにひきずられるように腰を使い、一気に頂点まで駆け昇る。
 体腔内に熱いしぶきを受けて、続いてライナーも昇りつめた。
 くずおれるその額に船医が手を伸ばし、汗ではりついた飴色の髪を掻き揚げた。固唾を飲んで見守っていたほかの男たちが色めいて手を出してくるのを制し、ぐったりした体を自分の膝の上に抱えあげる。
「次は俺の番だ」
 そう言うと、屹立した自分の怒張の上に、ライナーの腰を静かに下ろした。
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