BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第2章/星を渡る船
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 ライナーを除く全員がはっと振り向いた先に、一人の小柄な老人が立っていた。
 短く刈られた白髪。しわだらけの顔の中で、それだけが生気をみなぎらせている二つの緑の目。作業着のような動きやすい衣服に身を包み、右手は腰の短銃に添えられている。
 老人はかすかに足をひきずりながら、倒れたドアを迂回して中に入ってきた。
「今そこで、腑抜けみたいな阿呆どもとすれちがった。いったい何の騒ぎだ?」
「船長!」
 船医が上ずった声を上げた。
「船長?」
 ミハイルがその言葉に反応した。
「あなたがこの船の船長か」
「そうだ」
 答えながら老人は室内をぐるりと見回し、最後にミハイルの上に視線をとめてうかがうように目を細めた。
「どうやらおまえさんが騒ぎの中心らしいな。客人の中には見なかった顔だが……そうか、積荷というのはおまえさんか」
 ミハイルは黙って見つめ返し、そのうちふっと表情を緩めて言った。
「客人というからには、彼らの仲間ではないわけだ。では船長、すぐに進路を変えて逃げたほうがいい」
「どういうことだ?」
「口封じのために消される可能性が高いからですよ」
 落ち着き払ってミハイルは答えた。
「私の存在は極秘事項になっているし、彼らの基地は組織の一員にも知らされていない。無事に荷を送り届けたとして、あなたがたの雇い主が黙って帰すとは思えません」
「そんなたわごとに、わしが耳を貸すと思うか?」
「いいえ」
 平然と言い返す老人に、ミハイルも平然と答えた。
「ですからしばらく、この船の全権を貸与していただきたい」
 言うと同時にミハイルは足を踏み出していた。船医が警告する間もなく老人の背後に回りこみ、右腕をつかんでおいてすばやく武装解除する。
「どっちでもいい」
 ミハイルは二人の医師に向かって吼えるように言った。
「乗組員全員に伝えろ。今からこの船の指揮は、私が執る」
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