BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第2章/星を渡る船
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     * * *


 ライナーは夢を見ていた。
 先へ進まなくてはいけない。追い越していく仲間たちに続こうとするが、思うように足が動かない。やりかたはわかっているのに、心の命令に体が反応しないのだ。まるで誰か別人の体に閉じこめられているように、動作の一つひとつがもどかしい。
 取り残されてもがいていると、こんどは頭上から岩の雨が降ってくる。大丈夫、受けとめられるはずだ。両手を広げて待ちかまえているところに、ひときわ大きな岩が落下する。岩は腕を砕き、そのまま体を押しつぶして――うそだ!
 目を開けた。
 のぞきこんでいた男の顔がひっこみ、「気が付いたようだ」という声が遠くの方から響いてきた。
「ライナー」
 聞き覚えのある声が、これもまた反響音となって届く。
 ライナーは二、三度まばたきし、横になったままゆっくり首を動かした。
 見たことのない部屋だった。狭いが居住を目的とした造りになっていて、内装は柔らかい色調で統一されている。
「ライナー」
 もう一度自分を呼ぶ声がした。
「大丈夫か?」
 声の方に視線をずらすと、若い男の姿が目に入った。薄い金色の髪に青灰色の瞳、整った無表情な顔。懐かしさにも似た安堵を覚え、ライナーは息を吐いてかすかに微笑んだ。
「気分はどうかね? どこかおかしいところは?」
 最初の声に耳元でそう聞かれ、答えようと口を開く。
「な……なん……」
 舌がうまく回らない。起きあがろうとすると横から手が伸ばされ、壁に背を預けるように支えられた。
 試しに指を動かしてみた。驚くほどぎこちなく、自分の体の一部だとは思えない。
「か、感覚が……遠い」
「自分が誰だかわかるかね?」
 震えるようにうなずき、どうにか答えを言葉にする。
「……ラ、ライナー・フォルツ」
 それから顔を上げ、改めてあたりを見回した。すぐそばで自分を支えているのは、やせた初老の男。足元にいる二人のうち、手前の老人には見覚えがない。その後ろで、老人の肩に手を置いている若い男に目をとめたとき、霧の向こうに隠れていた記憶が一気に噴き出してきた。
 だがその記憶は最後の瞬間にとぎれ、目の前にいるこの人物とうまくつながらない。
「どうして――」
 問いかけようとしたとたん、体の熱がよみがえってライナーは息を詰まらせた。
「もう少し休ませたほうがいい」
 セクサロイド専門医の手を借りて、ライナーはふたたび横になった。かけられた毛布の触感に肌がざわつき、皮膚感覚だけが明瞭に浮きあがる。ほかのことはすべて夢のようだ。
 いや、もう一つだけ、心にひっかかるものがある。
 そこにいる若い男だ。銀色にも見える髪と目、白い肌、彫像のように均整のとれた肢体。その姿が、体の奥に眠る何かを呼び覚まそうとしている。彼の名は――。
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まろやか連載小説 1.41