BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第3章/運命の手のひら
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 海賊船の爆破を見せられてすぐ目隠しをされたので、ミハイルは自分がどこの星に連れていかれ、どこをどう通ってどんな場所に連れ込まれたのか、まったく知ることができなかった。
 目隠しをはずされたときには、手足に局部麻酔をかけられて実験台に載せられていた。
 科学者と思われる人間たちが六人、周囲を取り囲み、その背後にはいつでも撃てるように銃を構えた兵士たちが十人ばかり控えている。
 だれも無駄口を叩こうとはしなかった。ミハイルには何の説明もなく、科学者たちは互いに指示を出しあう以外ほとんど無言で作業を進めた。
 血液の採取にはじまって、毛髪、粘膜、表皮細胞、筋肉組織から、排泄物の採取までが淡々と行われた。肛門に電極を挿し込まれ、強制的に射精もさせられる。採取されたものはすべて密閉容器に入れられ、ただちに分析室へと運び出された。
 天井には眩しい照明があって、長時間目を開いていることはできない。横を向こうとすると銃を突きつけられ、正面を向くように戻された。
 口と肛門から内視鏡を挿入され、粗雑なやり方で探査される。苦しさのあまり途中で管を噛み砕いてしまい、そのあとは口に鉄の棒を捻じ込まれ、新しい内視鏡で探査が続行された。
 次には気の遠くなるような時間をかけて撮影が行われた。まずは光による外形の詳細な撮影、それからX線や磁気を用いての透過図や断面図の撮影。ミハイルの意思とは無関係に、体をひっくりかえされ、折り曲げられ、伸ばされ、持ち上げられて、さまざまな姿勢をとらされる。
 科学者たちの手つきも目つきも、人間に対するそれではなく、実験動物に対するのとまったく同じだった。人格を無視した扱いに、ミハイルは自尊心を打ち砕かれ、同時に寒気を覚えた。
 撮影がすむと脳波を測定され、その日はそれで終わりだった。流動食のようなものを管で喉に流し込まれたあと、ミハイルは薬で眠らされた。
 次の日は、朝から晩まで、ありとあらゆる知能テストや心理テストのたぐいを受けさせられた。ミハイルを従わせるために、ここでも海賊たちと同じ方法がとられた。手足は過負荷によって電撃を与える枷で拘束され、首には遠隔操作もできる首輪をつけられた。テストの質問に答えなかったり、少しでも反抗の色を見せたりすると、容赦なくスイッチが入れられる。数回味わっただけで、抵抗しようなどという考えはミハイルの頭から吹き飛んでいた。
 翌日からは完全に拷問だった。強化樹脂の檻に閉じ込められ、限界まで温度を上げ下げされたり、過度の重力をかけられたり、空気を抜かれたりといった非人道的な実験がくりかえされた。
 四肢を万力のような機械で挟み、常人なら裂けるほどの力で四方に引き伸ばすようなことも行われた。このときは、口枷を噛み砕き、片足の拘束を振りちぎったところで催眠ガスが放出され、実験は中断された。
 頭の割れるような騒音を間断なく聞かされ続けたこともあった。逆に、手足を拘束され、目も耳も口もふさがれたまま、栄養剤を投与されるだけで何日も放置されたこともあった。痛覚神経だけを選択的に刺激するという実験が行われたときには、電撃を無視して枷を引きちぎったうえ、強化樹脂を割って外に飛び出し、大騒ぎになった。もしもミハイルに、銃口のもたらす結果を想像できるだけの理性が残っていなかったら、一部隊分の銃弾を浴びて、形も残らないほどの肉片になっていただろう。
 だが、それだけの目にあいながらミハイルは、自分でも驚いたことにそれほどダメージを受けていなかった。死ぬほどの苦痛も、通り過ぎればただの記憶に変えることができた。健康状態はもとより、精神状態も良好で、狂気のつけいるような隙はどこにもない。孤独も恐怖も、彼を打ち負かすだけの力は持たなかった。
 状況はどこまでも絶望的だったが、ミハイルは希望を捨てなかった。
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