BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第3章/運命の手のひら
− 03 −
「ライナーの居場所なら、すぐにわかる」
 予想外の言葉に、大騒ぎしていた一同はすぐにはその意味を理解できなかった。
「何だって?」
「何?」
「どうやって?」
 質問の嵐が通り過ぎるのを待って、発言の張本人であるヨシムネは、いたずらを見つかった子供のような顔をして言った。
「彼を診ているときに偶然わかったんだが、あの表皮は、検査をあざむくための信号以外にも、いくつか特徴のある信号を出していてな。そのうちの一つは、見落とすぐらいにかすかだが常に一定のパターンを示していて――つまるところ、それを探せば自ずと彼の居所がわかるというわけだ」
「ちょっと待て」
 タイチャルがいちはやく、その内容の問題点に気づいて口を挟んだ。
「それはつまり、発信機と同様の役割をはたすということなのか?」
「……うむ、そういうことになるだろうな」
「いつ気がついた。なぜ言わなかった」
 顔色を変えたタイチャルを避けて、ヨシムネはミハイルの背後に隠れるようにした。
「まあ、その、ずいぶん前というかほとんど最初からというか……つい、言いそびれてな」
「わざと言いそびれたんだろう」
「だって、わしの立場にもなってみてくれ。最新型のセクサロイドだぞ? あれだけ高性能のサンプルだぞ? 言ったら、彼を船に留めておいてくれたか? せっかくのチャンスをみすみす逃せというのか?」
「きさまの勝手な都合で、わしの船はずっと危険にさらされていた」
「だ、だが、実際には何も問題は起こらなかったじゃないか」
「幸いにも、今まではな」
 タイチャルは感情を抑えた声で言った。
「何も起こらなかったことを感謝するんだな。今すぐわしの前から消え去れ。こんど会ったときには、舌を抜いて奴隷商人にでも売り飛ばしてやる」
 それだけ言うと、老いた船長は乗組員に向かってきびきびと指示を出した。
「全員乗船! マレイ、全員そろっているか確認しろ! すぐ出航する!」
 タイチャルは最後にミハイルの方を向いて言った。
「おまえさんだけなら連れていってもいい。どうする」
 ミハイルは黙って首を横に振った。タイチャルはくるりと背を向け、すっかり興味を失ったように歩み去った。
「……その、こんなことになるとは――」
 茫然自失の状態から抜け出すと、ヨシムネは弁解を試みようと口を開いた。
「それはいい。そんなことより、早くライナーを」
 ミハイルにせかされ、セクサロイド医は急いで懐から小型の装置を取り出した。
「受信機だ。ライナーの固有信号を捕捉して、常に彼の動きを追跡している」
「ずいぶん準備がいいんだな」
「なあ、ミハイル」
 ヨシムネは体を縮こまらせてすがるような目つきをした。
「本当に悪かったと思ってる。だがこれは、単にサンプルに足環をつける行為だったわけじゃない。ライナーは不安定だった。彼に何かがあってはいけないと――」
「私は怒ってはいない」
 感情のこもらないミハイルの言葉に遮られ、ヨシムネは諦めて機械の操作に専念した。しばらくディスプレイに現れる数値を解読していた彼は、じきに眉を上げ、安堵の溜息を漏らした。
「なんだ、目と鼻の先だ。宇宙港の構内だよ」
 だがミハイルは逆に表情を険しくした。
「構内のどこだ。まさか船のどれかに……」
「うむ、その可能性は高いな。どうやら停泊場のど真ん中――と、そうか! ぐずぐずしちゃおれん……!」
 ヨシムネが事の重大性に気づいたときには、すでにミハイルは老医師の体を抱えて走りだしていた。
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