BL◆MAN-MADE ORGANISM
TOPINDEX BACK NEXT
第3章/運命の手のひら
− 05 −
「これでよかったのか?」
 停泊場を後にし、宇宙港の殺風景な建物の中を歩きながら、ヨシムネが納得しかねるという顔で言った。
「いいんだ。彼が決めたことだ」
 ミハイルは前を向いたまま答えた。
 とぼとぼと歩く二人の脇を、さまざまな人々がせっかちな足取りで通り過ぎていく。これからの数日をいかに過ごそうかと相談している、到着したばかりの船乗りたち。時間がないと慌てふためいて駆けていく、こちらは出発前の船乗りたち。どこかの船に呼ばれたのだろう、修理工が山ほどの工具を抱えて歩いていく。荷物の山を積載した運搬ロボットが一定の速さで進むその向こうで、だれかと待ち合わせでもしているのか、時間を気にしながら同じ場所を行ったり来たりしている男……。
「あんたも、わしの舌を引っこ抜いてやりたいと思っているクチかね?」
「いや。あなたがいなければ、ライナーは助からなかった」
 ヨシムネは小さく溜息をついた。
「わしは、彼らセクサロイドが好きだよ。美しくて、従順で、限りなく利他的。人間の愚かな夢をかなえてくれるすばらしい生き物だ。わしは何度も、彼らに慰められ、生きる気力を与えられてきた。まともな人間なら、どうしたって彼らに何かしてやりたくなる。たとえ、彼ら自身はそんなことを期待していなくとも。そういう生き物なんだ」
「ライナーと出会って、私は変わった」
 ミハイルはやはり前を向いたまま言った。
「私はずっと、何かから逃げたかった。自分の体から、養父の愛情から、宿命から……。ライナーは、はじめて私がそう思わなかった相手だった。彼を失いたくないと思ったとき、彼は私の枷となった。だから私は、自分の自由を守るために彼を引きとめた。だが今――私は、彼といられるなら自由などなくてもいいと思っている」
 話しながら、ミハイルの意識はそれとなく周囲に向けられていた。
「彼の主人になるには、どうすればいい?」
 ヨシムネは目を丸くしたが、すぐに元の顔に戻って言った。
「抱いてやること、世話してやること、命令してやること。あとは彼が決める」
「ありがとう。あなたはもう行ったほうがいい」
 そう言ってミハイルは足をとめた。セクサロイド医はすべてを了解した顔で軽くうなずくと、そのまま出口に向かって歩き続けた。彼が充分離れたことを確認してから、ミハイルは口を開いた。
「そろそろ姿を見せたらどうだ」
 通行人の間から一人の男が歩み出た。続いて一人、さらに一人……。
「我々の仲間がいたるところからあなたを狙っています。いくらあなたでも、この包囲網から抜け出すことは不可能です」
「ライナーと同じ組織から派遣されてきたんだろう?」
 ミハイルは静かに言った。
「私は、抵抗するつもりはない」
TOPINDEX≫[ 読んだよ!(足跡) ]
まろやか連載小説 1.41