BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第3章/運命の手のひら
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     * * *


 本船に回収されると、ライナーはショウから引き離されて厳重な監視下におかれた。だが、帰還した彼に与えられた指示は、自宅で三日間の休養をとるようにというものだった。
 拍子抜けする思いで帰宅した彼は、数か月ぶりに家族と対面した。
「まあ、ライナー。こんどの出張はずいぶん長かったのね。心配したわ」
 養母のアデーレ・フォルツが、心からの笑顔で彼を迎えた。
 ライナーは彼女を抱きしめ、他の家族の安否を尋ねた。
「みんな元気よ。デトレフは休暇で旅行中。エーファとマルティーンは学校よ――そうそう、マルティーンは先月から学校に通いはじめたの。お父さんはあいかわらず軍の基地に詰めっぱなし」
 フォルツ家は由緒ある軍人の家系だった。最初の子供を流産し涙にくれていたアデーレに、軍を通じてM・M・Oの子供があてがわれた。それがライナーだった。アデーレは彼を我が子同然に慈しみ、のちに実子をもうけてからも変わらぬ愛情を注いだ。
 彼は軍の運営する学校に通い、最高学府を卒業後、政府のさる外郭団体に所属した。そこでの彼の身分は、福祉事業に関する調査員ということになっている。一般人のなかでアデーレだけは彼の正体を知っていたが、彼女も彼の本業については知らされていなかった。
「ライナー! いつ帰ったの?」
 夕方になると、下校したマルティーンが転がるように駆け寄ってきた。小さな少年を膝の上に抱え上げたところに、思春期の少女が入ってきてライナーの首に腕を回し、頬に軽く唇を当てる。
「エーファ。ずいぶんきれいになったじゃないか」
「兄さんはちょっと老けたんじゃない?」
 ライナーの拳が飛んでくる前に、少女は笑い声を立てて離れ、荷物を置きに奥の部屋へ去っていった。
 静かな居間、温かい料理、他愛のない会話……。理想的な家族の団欒に浸っていると、先ほどまでの出来事がすべて、だれか別人の身に起きたことのように思えてくる。
 そう、ここは間違いなく自分の家だ。
 満腹したライナーはソファの上でくつろぎ、片づけをする母の姿を目で追った。そのうちアデーレが視線に気づき、手を動かしながら振り向いて問いかけた。
「何をにやにやしてるの?」
 ライナーは寝返りを打って体を丸め、片手を伸ばして床の絨毯に触れた。
「愛してるよ、母さん」
「おやまあ、いったい何が目的なの、性悪さん? おだてたってなんにも出ないわよ」
 おどけて笑っていたアデーレの顔が、ふと曇った。
「どうしたの? なんだか疲れてるみたいだけど、大丈夫?」
 ライナーは黙って微笑んだ。アデーレの顔に目をやったまま、生き物を慈しむように絨毯を撫で続ける。
「母さんが、俺の母さんでよかった」
 そうライナーが囁くように言ったのは、ずいぶん経ってからのことだった。
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