BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第4章/過去の亡霊
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 初めて肉眼で見る地球は、青と緑と茶のまだら模様をしていた。自然保護惑星という言葉から、一面青々とした星を想像していたミハイルは、少し落胆した。考えてみれば、砂漠や荒野も自然の一部なのだから、当然のことだ。できるかぎり人の手が加えられていないという意味で、地球の自然は保護されているのだった。
 到着すると、ミハイルはウォンと引きはなされ、広い施設の奥へと連れていかれた。曲がったり階を変えたり、迷路のような通路をさんざん歩かされたすえ、ようやく一室に招きいれられた。
 殺風景な会議室のような部屋。変形の細長いテーブルを囲んで五人の男女が席についており、いっせいにミハイルを注視した。
「ようやくお会いすることができましたね、ミハイル・グローモワ博士」
 中央の男が立ちあがって言った。
「評議会議長のカート・ボイドです。こちらは、向かって左から、書記のアレクセイ・ストルガツキー、副議長のパメラ・クラーク、評議員のマーガレット・サパリンに、同じく評議員のイリヤ・ウォルハイム」
 評議員たちはいずれもまだ若かった。そしていずれもよく似た雰囲気を持っていた。
 カート・ボイドはにこやかな笑みを浮かべて続けた。
「いろいろ不愉快な思いをさせたことを許していただきたい。決してそうしたかったわけではないのですが、周囲を欺くためにしかたがなかったのです。あなたが消息を絶ったときには、本当に焦りました。ですが、こうして無事に顔を合わせることができてよかった」
 予想以上に友好的な応対に、ミハイルは無意識に警戒していた。わずかに身構えながら目をすがめて訊く。
「周囲を欺くため?」
「話せば長くなります。まずはおかけください」
 カートはほほえんだまま言った。右端にいたイリヤという男が腰を上げるのを見て、ミハイルは一歩後ずさりした。
「どうぞ、グローモワ博士」
 イリヤの手がこちらへ向かって伸ばされる。
 首筋の毛がちりちりした。もう一歩後ずさりし、身をひるがえそうとしたところを、肘のあたりをつかまれて引きとめられた。
 ミハイルは動きをとめた。信じられない思いで、自分をつかんだ男の手を見つめた。
 ふりほどけないほどではない。だが、自分の動きの邪魔になるほどには、男の力は強かった。
 不快な汗が噴き出した。
「おわかりでしょう?」
 イリヤが唇の端だけ上げてほほえんだ。
「私も、あなたと同じ強化人間です。ここにいる全員が、あなたの仲間です」
 促されるままミハイルはテーブルに近づき、糸の切れた操り人形のように腰を下ろした。
「……どういうことだ……」
「強化人間の歴史について、多少はご存じだと思いますが」
 カートがふたたび口を開いた。
「くりかえされた近親交配の結果、我々のほとんどは生殖能力を失い、クローニングによってしか個体数をふやせない状態になっていました。しかし、わずかですが、生殖の可能な者も残っていたのです。ここにいる我々は、その子孫というわけです」
 ミハイルは、カートの言葉を一言半句たりとも聞きのがすまいとした。だが言葉は、その意味をつかむ前にことごとくすりぬけていってしまう。
「我々は、長い時間をかけ、ひそかに人間社会に浸透してきました。こうして政府の頂上にまで昇りつめた今、ようやく、散り散りになった仲間たちを集めはじめたのです。あなたの場合は、単純に呼びよせるというわけにはいきませんでした。あなたは、強化人間のなかでも、最も有名で最も畏怖されたミハイルシリーズHigh-poweredタイプのクローン。我々は建前上、あなたを忌むべきものとして扱わなければならなかったのです」
「では、ライナー・フォルツに私を狙わせたのは、はじめから失敗するものと計算したうえでのことだったのか」
「そのとおりです。M・M・O一人にあなたを殺傷することなどできません。我々は暗殺には失敗したが、かろうじて捕獲には成功した――そういう筋書きであなたの身柄を保護する計画でした」
「刺客としてライナーを選んだのには、理由があったのか?」
「それについては、のちほどデイル・ホークス博士から説明をお聞きください」
 デイル・ホークス博士。その称号に、ミハイルは軽い驚きを覚え、同時になるほどと納得した。
「それよりも、ライナーに会わせてほしい。私はそのためにここまで来たんだ」
「そのことですが」
 カートは初めて笑み以外の表情を浮かべた。
「確かにライナー・フォルツという名のM・M・Oはいます。ですが、彼はもはやあなたの知っていたライナーではありません」
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