BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第4章/過去の亡霊
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     * * *


「メリア共和国?」
 透きとおった強化樹脂の檻の向こうで、クリス・ベア司令官は神経質そうに片方の眉を上げた。
「本当におまえは、そんなところから送りこまれてきたのか?」
 ミハイル・グローモワの説得によりウォンが口を開き、報告を受けて、司令官自らが実験室に足を運んできていた。司令官の背後には数人の護衛がつきそい、傍らには、ミハイルに交換条件を出した副官のユージン・メリエスが控えている。
「嘘ではない。私は共和国軍諜報部の命令でここに潜入した」
「目的は何だ」
「軍事力および上層部の派閥、力関係――そういったことを調査して報告するのが任務だった」
 ウォンは、檻の中央でミハイルに支えられるようにして半身を起こし、投げかけられる質問に機械的に答えていた。傷の手当てを受けないままの体は、消耗が激しく、わずかに熱をもっている。ミハイルは、内心じりじりしながら、黙ってなりゆきを見守っていた。
「まったく、こんな話が信じられるか?」
 初老の司令官は、苦虫を噛みつぶしたような顔をして副官に訴えた。
「よりによってメリア共和国だと? 共和国軍諜報部? このセクサロイドはでたらめを言っているだけではないのか?」
 メリア共和国というのは、人類の故郷である地球を中心に、宇宙開発の初期に開拓されたいくつかの惑星から成り立つ国家だった。治安のよさと牧歌的環境だけがとりえで、他国への政治的影響力はないに等しく、富裕階級の別荘地としてしか認識されていない。軍隊ももちろん式典の装飾品になりさがっている。
 そのような国家が、諜報部という穏やかでない組織を保有し、あまつさえ他国に間者を送りこんでいるとは、にわかには信じがたい話だった。
「お言葉ですが、司令官」
 副官のユージンは、落ち着いた灰色の目を司令官に向けた。褐色の髪を短く刈りあげた、いかにも軍人らしい武骨な顔。青年期から壮年期に移行する途上といったところだが、人の上に立つ者特有の雰囲気のせいで、実際の年齢以上に老成してみえる。
「私には、このセクサロイドが嘘をついているとは思えません。信じられないというなら、この存在自体がまず信じがたいものです。ここまで精巧なセクサロイド――人間とほとんど見分けのつかないセクサロイドなど、我々の技術力をもってしても開発不可能です。我々は、メリア共和国に対する考えを、少し改めるべきなのかもしれませんよ」
「君の言うとおりだな」
 司令官はすぐにうなずいた。
「幸い今回は、口の軽いセクサロイドにあたったらしい。疑問の多くに解答が与えられることを期待している」
 ユージンは許可を求めるように司令官の顔を見た。
「司令官。私は、ミハイル・グローモワに、情報を引き出せたらこのセクサロイドを与えると約束しました」
「いいだろう。訊き出すだけ訊いたら、あとは好きにすればいい。グローモワとともに、君の監視下におきたまえ」
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