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第4章/過去の亡霊
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     * * *


「動くな。全員武器を捨てろ。ゆっくり立ちあがって、一人ずつ外に出るんだ」
 デイーナ・シー連邦の護送艦の中。ユージン副官を人質にとったミハイル・グローモワは、ウォンを従えて船橋に躍りこんだ。
「きさま!」
「副官!」
 騒然とする部下たちに向かって、ユージンは苦々しげに言葉を吐いた。
「彼の言うとおりにしろ。抵抗すれば、被害は私だけではすまない」
 後ろ手に拘束したユージンを盾に、ミハイルは威嚇するように一歩踏み出した。右手にたずさえていた金属製の工具を高くかかげ、一同の見ている前でぐにゃりと曲げてみせる。それ以上のデモンストレーションは必要なかった。兵士たちは一様に口を開け、続いてぎくしゃくと指示に従った。
「小型艇の発進準備を」
 ミハイルに強要されて、ユージンは手順を説明した。説明に従って、ウォンが慣れた手つきで制御装置を操作する。発進準備が整うと、ウォンは無造作に銃を乱射し、制御盤と画面を破壊した。とたんに警報が鳴りひびいた。
「案内しろ」
 ミハイルはユージンの背中を小突いて船橋を出た。油断なく目を光らせながら、慎重な足どりで通路を進む。異常事態に、艦内のあちこちから武器を持った兵士が飛び出してきたが、ユージンが人質になっているのを見ると、みな凍りついてそのまま三人を見送った。
 じつはこれは、ユージンの計画による大がかりな芝居だった。デイーナ・シー連邦の防衛システムから離れれば、ウォンのボディを通してすべての情報が筒抜けになってしまう。要塞からの移送中、隙をついて脱出したという筋書きを信じさせるためには、実際にそのとおりの状況を演出する必要があった。
 演技だということが露見しないよう、最小限の幹部にしか事情を説明していない。兵士たちのほとんどにとっては、これは本当の緊急事態であり、当事者三人にとっては二重にも三重にも緊張を強いられる時間だった。とりわけユージンに関しては、いつ自分が本当の人質にされるかもわからない危険な賭けといえた。
 小型艇の格納庫にたどりつく。中に入って施錠したうえで鍵を壊す。ユージンに船外用の気密服を着せ、発進の衝撃で艦外に放り出されないよう、格納庫の柱につなぎとめる。
 ウォンが操縦席についた。小型艇は静かに浮きあがり、開いたハッチを抜けて無事に脱出した。
 制御装置を破壊された護送艦は、追ってくることも攻撃してくることもできない。
 ミハイルは大きく息を吐き、握りつぶしたまま持っていた工具をようやく床に落とした。
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まろやか連載小説 1.41