BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第5章/いくつもの未来
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「アッ、アッ、アッ、アッ、アッ……!」
 官能細胞のもたらす感覚は暴力的で、ミハイル‐Hの予想をはるかに超えるものだった。
 かすめるように触れられるだけで、全身が乱暴に揺さぶられ、ばらばらに分解されてしまいそうな衝撃。
 このうえない苦痛だったが、紛れもない快感でもあった。
 ミハイル‐Hの記憶に、これほど強烈な肉体感覚は存在しなかった。戦闘による負傷の痛みに耐え、拷問に対抗できるだけの訓練を受けた彼の精神力も、無限の快楽という責め苦の前では無力に等しかった。
 生まれて初めて味わう真の恐怖。
 いまだかつてない屈辱。
 宇宙最強と謳われた自分が、革の枷ひとつで自由を奪われ、痛みではなく快感のために泣き声を上げている。
 恐ろしいのは、自分がその快感を受け入れ、さらにそれ以上を貪欲に求めていることだ。
 あまつさえ、自分の体は、痛みであれ何であれ、すべての感覚を快感として認識してしまう。
 ふつうに刺激を与えられるだけでは物足りない。激しく責められ、苦しさに身悶えたとたん、体の奥の別の火種に火がつき、赤々と燃えあがる。その炎をなだめるには、さらに激しく責められるしかない。責められればまた欲しくなる。終わることのない悪循環。
 そうして屈服させられ、屈辱に心が裂けることにさえ快感を覚えている自分に気がつき、愕然とする。
 両腕は後ろ手に固定され、足は片方ずつ、膝を折り曲げるかたちで足首と太腿をつながれている。身動きはおろか、自分で体を支えることもままならない。六人の男たちの間で、荷物のようにやりとりされ、無防備なまま陵辱されるばかりだ。
 体の奥深く、誰かの怒張した楔が突き立てられていた。改造された奇形の楔は、周囲にまとった繊毛のような触手で、ひきのばされた内壁を繊細に刺激してくる。
 むずがゆさはやがて耐えがたいかゆみとなり、それを鎮めるためには、自ら腰を振ってこすりつけるしかなかった。
 たちまち湧きあがる甘美な陶酔感。
 惨めさに、我知らず涙がこぼれおちる。
 ほんの数分のうちに、ミハイル‐Hの矜持は形も残らないほど叩きのめされ、彼は自分の全面的な敗北を認めた。
 だが、皮肉なことに、彼にこの責め苦を与えている張本人――デイル・ホークスは、彼がその程度で音を上げるとは考えていないようだった。
「どう? 新しい体の性能は」
 デイルは揶揄と軽蔑のこもった声で言った。
「このくらいではまだ足りないかしら? 何もかもしゃべりたくなるまで、じっくりかわいがってもらうといいわ」
 その言葉が合図になったように、ミハイル‐Hを貫いていた男が急に動き、乱暴なやり方で腰を突きあげた。
 内臓を殴られたような衝撃に、ミハイル‐Hはかすれた悲鳴を上げて大きくのけぞった。
 その顎をつかまれ、割り開かれた口の中に、二本の指をさしこまれる。
 ぐるりとなぞられると、たまらない心地よさが広がった。夢中でその指に舌を絡め、さらなる刺激を求めて吸い立てる。
 指はしなやかに口腔内をまさぐり、舌を挟んでもみほぐした。同時にほかの指が顎を撫で、頬をさすった。
 別の手が伸びてきて、肩から胸にかけてマッサージするようにこすりはじめる。
 硬く立ちあがった乳首をいじられると、電流のようなしびれが走り、体がびくびくと小刻みに震えた。
 もがく腰を誰かの両手でつかまれ、背骨に沿って背中と脇を撫であげられる。
「……ッ!」
 下腹部に熱い吐息がかかったかと思うと、ふいに性器をくわえられた。
 ぬめった粘膜にまとわりつかれ、自在にうごめく肉塊にからめとられて、激しくしごきたてられる。
 血液がその一点に集中し、膨張し、一気に沸点へと駆けのぼる。
 と、解放の寸前、突き放すように口が離れ、ミハイル‐Hはひきつれるような苦しみに呻いた。
 理性も矜持も投げ捨てるほどの快感にさいなまれながら、まだ一度も射精にまではいたっていない。
 六人のセクサロイドは、容赦なく彼を追いあげては、巧みに絶頂をそらし、絶え間ない快感と苦痛のはざまで彼を翻弄しつづけていた。
 肛口をふさいでいた楔が引き抜かれ、別の楔が押しこまれる。こんどのそれは、なめらかな皮膚の下で、いびつな隆起が不規則にうごめいていた。男が腰を回すと、楔本体の動きとは別に、隆起の連なりが移動し、予期しない角度から内壁を押しあげてくる。
 あとわずか。
 解放を切望してミハイル‐Hは身をくねらせるが、いくらあがいても、肝心の一点に楔が触れることはない。
 ミハイル‐Hは、意味のないわめき声を上げ、狂ったようにもがいた。
 目の前に火花が散り、一瞬頭の中が真っ白になる。
 だが、意識を失う前に、手ひどく頬を叩かれ、むりやり正気に引き戻されてしまう。
 抵抗することもできず、失神することも許されず、ミハイル‐Hはもうろうとした意識の片隅で自分の狂気を予感した。
「デイル!」
 やっとのことで男の指を口から吐き出し、傍らでこの光景を冷静に眺めている女に向かって訴える。
「すべて話す! だからもうやめてくれ! この男たちを部屋から出して……二人だけで話したいことが――」
「まだそんな余裕があるの?」
 デイルの答えは冷ややかだった。
「そんな言葉にはだまされないわ。言いたいことがあるなら、そのまま言いなさいよ。ちゃんと聞いていてあげるから」
 突然ミハイル‐Hは悟った。
 彼女は、自分がとっくに陥落していることを充分承知している。それにもかかわらず拷問の手を緩めないのは、自分から話を訊き出すことなどどうでもいいからだ。彼女の目的は、自分をいたぶることそれ自体。これはただの虐待行為――あるいは冷酷な実験なのだ。
 絶望で目の前が暗くなった。
 力を失った口の中に、別の男の楔がねじこまれる。強引に抜き差しされて、吐き気とともに、泣きたくなるような愉悦がせりあがってきた。
 終わりのない悦楽地獄。
 ミハイル‐Hはすべてを諦め、自分の精神が狂気の淵へと転がりおちていくに任せた。
 そのとき、彼の視界に新たな世界が広がった。
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