BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第5章/いくつもの未来
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「もう一度確認するが、すべてのデータを抹消して、彼らが自然に滅びるに任せるだけでは駄目なのか?」
 いよいよ決行しようという夜、ミハイルは再度ライナー・ミハイル‐Hに念押しした。
 ミハイル‐Hは淡々と答えた。
「結果としては確かに同じことだ。だが彼らには、自分たちがかつて行ない、これから行なおうとしていることの意味を、思い知る義務がある」
「でもあんたの忠告どおり、むやみに殺すようなことはしない」
 あとを引き取って、ライナーが言った。
「彼らに、絶望し後悔する時間を与えなかったら、復讐の意味もないし」
 ライナーとミハイル‐Hが交互に現れる状態に、今ではミハイルはすっかり慣らされていた。
「こういう状態はそう長くは続かないはずだ」
 それについて、以前ミハイル‐Hはこう語った。
「私たちは結局、このM・M・Oのボディに移植された同一のデータなのだ。やがては境界が曖昧になり、一つの人格に統合されるだろう。現に私たちは、もはや自分たちの思考にそれほどの違いを感じられない」
 実際のところ、ライナーとミハイル‐Hの関係は、人が頭の中で自分自身と対話するのに似ていないこともなかった。二つの相違する考えを吟味し、天秤にかけ、判断をくだす。そして今、二人の意志は、復讐という目的のためにほとんど一つになっていた。
「途中で物理的な抵抗にあうことは、ほぼ間違いないだろう。最終的な相手は、少数とはいえ強化人間たち。体力的に対抗できるのは、ミハイル、君だけだ。このボディの制御はライナーに任せて、君の援護にあたらせる。戦闘の指揮は私がとる」
 理にかなった役割分担だった。ミハイルは、並はずれた肉体を持ってはいるが、実戦の経験はない。ライナー・フォルツのボディを的確に動かせるのはライナー自身だが、暗殺者としての訓練を受けているとはいえ、そのボディの能力は並の人間と大差ない。ミハイル‐Hには、自分の自由になる体はなかったが、数々の修羅場をくぐりぬけてきた経験上の知識があった。
「それでは、始めようか」
 ミハイル‐Hが静かに宣言し、端末の最初のキーを押した。
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まろやか連載小説 1.41