BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第5章/いくつもの未来
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 多勢に無勢のこの作戦では、先制攻撃が何より肝心だった。
 相手に気づかれないよう、搦め手から攻略していく。まずは、綿密に調べあげたすべての警戒装置に対し、いっせいに情報のすりかえを行い、機械的な警備を無効にした。続いて中央コンピュータに侵入し、施設内の生命維持に関わる部分など一部を除き、すべてのプログラムとデータを破壊した。
 また、メリア共和国の内外を問わず、施設の中央コンピュータにアクセスできるすべてのコンピュータに対して、データごとシステムを破壊する致命的なウィルスを送信した。
 ミハイルとミハイル‐Hの知能をもってすれば、プログラム上の防御システムを突破するのは、そう難しいことではない。
 二人はまたたく間に、施設の制御システムのほとんどを掌握してしまった。
 問題は、中央コンピュータから独立した部分への対処だ。これには、直接その場所へ赴いて、一つ一つ潰していくしかない。
 二人はこっそり部屋を出、最初にハリーたちの研究室へ向かった。
 出入口には一見してそうとはわからない厳重なロックがされていたが、前もってミハイルが細工していたため、侵入は容易だった。施設の機能には無関係なので、コンピュータそのものを破壊する。
 ミハイルが次の目的地へ向かおうとすると、ライナー・ミハイル‐Hがひきとめて反対方向へ進みだした。
「M・M・Oに関するデータも消去しなくては。彼らの人格モデルは私のものだ」
 デイル・ホークスや、その他のM・M・O開発関係者の研究室を回り、そこでも同様の破壊工作をする。
 それから予定どおり、クローン培養槽のある立入禁止区域へと向かった。
 整然と並んだ培養槽を前に、ミハイルは激しい葛藤に襲われた。
 この容器の一つ一つに、クローンとはいえ紛れもない生命が息づいている。自分もかつて、こうして生命を吹きこまれ、この世に生まれてきたのだ。彼らの命を奪う権利は、はたして自分たちにあるのだろうか。
「放っておけば、彼らはいずれ、単なる肉体の部品か、何らかの実験材料になるだけだ」
 ミハイル‐Hは言い含めるように言った。
「今はまだ、はっきりした意識もないし、自我も持ちあわせていない。培養槽から出す処置をしても、どうせ自分ではろくに動くこともできない。慈悲をかけてやるなら今だ」
 理屈としてはきわめて筋が通っており、彼らのために大儀を捨てるのは本末転倒だということはわかっていた。だが、かつて保身のためにクローンタイプを抹殺した強化人間たちと、ちっぽけな正義感のためにこのクローンたちを手にかけようとしている自分たちとの間に、明確な違いがあるのかと問われれば、答えられない。
「ミハイル、あんたは外に出ていろ。これは俺の仕事だ」
 土壇場にきてためらっているミハイルに、こんどはライナーが言った。
「麻酔薬を注入してから、生命維持装置を停止させる。彼らが苦しむことはない」
 ミハイルは無言でその言葉に従った。しばらくするとライナーも出てきた。ライナー・ミハイル‐Hは言った。
「何も残らないよう、火をつけてきた。さすがにそろそろ感づかれる。急ごう」
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