銃弾の発射されるかすかな音が空気を裂いたが、ミハイルは衝撃を感じなかった。
倒れたのはデイルのほうだった。
隠し扉からウォンが現れ、腕を撃たれて呻いているデイルの手から銃を取りあげた。
「ウォン!」
「ウォン?」
声が重なり、ミハイルはさらに驚いて振り返った。
後ろでは、額から血を流したライナーが半身を起こし、今まさに引き金を引こうとしていたように銃を構えていた。
「ライナー!」
「忘れたのか? ミハイル」
ライナーは、ライナー・フォルツのやり方でにやりと笑ってみせた。
「俺たちM・M・Oには脳がない。全身が脳のようなものだから、急所といえる部分はないんだ」
「……だが、デイルがそれを忘れていたとは……」
「先に来るのがあんたか俺か、確信がなかったんだろう。頭を狙えば、あんたなら一発で終わり、俺でも気絶させることぐらいはできるからな――それより」
ライナーは立ち上がり、妙に勝ち誇ったような顔でデイルに歩み寄った。
ウォンに取り押さえられたデイルは、いつもの高慢な態度でライナーを睨みつけた。
「あんた、強化人間だって?」
嘲るように言ったライナーは、次の瞬間、誰もが予想していなかった行動に出た。
ナイフを取り出し、デイルの右腕を大きく切り裂いたのだ。
デイルは悲鳴を上げることもできず、ただ大きく体を震わせた。
「見ろ!」
ぱっくりと割れた傷口の肉は、強化人間のものでも人間のものでもなかった。薄い色素、わずかに構造の異なった組織――。
「あんたは本当に、騙されていたのさ」
誰も口を開こうとしなかった。
ミハイルもウォンも驚愕の表情を浮かべていたが、デイルは表情すら失っていた。
「……う、嘘……」
ようやくその唇から、蚊の鳴くような声が漏れた。と、次にはそれはヒステリックな叫びに変わった。
「嘘よ、嘘よ、嘘よ! こんなの嘘、嘘よおおおおおおおおっっっ!!」
ウォンが手刀の一撃でデイルを昏倒させた。
ライナーが彼女の手足を撃ち抜いて始末をつけた。