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第5章/いくつもの未来
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 最後の扉を破った瞬間、ミハイルは、扉の陰から躍り出た人影に殴り倒され、数人がかりで押さえつけられた。
 殴ったのはイリヤ・ウォルハイムだった。イリヤはミハイルに銃をつきつけ、あとに続いて入ってこようとしたライナーたちを威嚇した。
「動くな。こいつの命が惜しければ、全員下がれ」
 M・M・Oたちは全員その言葉に従った。ミハイルはじっとしていた。
「よくもやってくれたものだ」
 部屋の奥から、カート・ボイドの声が聞こえた。別の扉が開き、カートが落ち着いた足どりで出てくるところだった。
「おかげで我々は、この基地を見捨てなければならなくなった。ゆっくり礼をしたいところだが、残念ながらあまり時間がない。彼を人質にして強行突破させてもらうとしよう」
「待てよ」
 ライナーがふてぶてしく言って出入口の前に立ちはだかった。
「強化人間に関するデータはすべて消失。これから研究を再開しても、あんたたちの寿命が尽きる前に完成させることはとうてい不可能だ。護衛のM・M・O部隊もほとんど全滅した。仮にここから脱出できたとして、どうするつもりだ?」
 カートはくつくつ笑った。
「つくづく馬鹿なやつらだ。我々の基地がここだけだと思うかね? 共和国内にはまだ我々の拠点がいくつかあるし、そこにはすべてのデータが残っている。今も、そのうちの一つから、救援部隊がこちらへ向かっているはずだよ」
 それを聞いても、ライナーは驚いた顔一つ見せなかった。
「馬鹿なのはそっちだ。施設内のほとんどのシステムを破壊しておいて、なぜ通信システムだけ生かしておいたと思う? おまえたちに仲間を呼ばせ、すべての拠点をあぶりだすためだったのさ。今ごろはディーナ・シー連邦の艦隊によって、救援部隊は一網打尽にされているはずだ」
 初めてカートの顔に狼狽の色が浮かんだ。
「仮にそれが本当だとして」
 カートは挑発するようにライナーを見つめた。
「我々にはまだ、おまえたちを道連れにして自決するという道も残されている」
「ミハイル」
 ライナーの合図と同時に、ミハイルは隠し持っていた小さなボタンを押した。
 突然、ミハイルを中心にすさまじい電流が走り、彼を押さえていた強化人間たちはまともに電撃を浴びて昏倒した。離れていてあまり影響を受けなかったカートは、ライナーの麻痺銃によって行動の自由を奪われた。
「うう、まいった」
 折り重なった強化人間たちの下から這い出しながら、ミハイルは顔をしかめて言った。
「めちゃくちゃなパワーだ。避雷装置をつけていてもきつかった」
 ミハイルが捕まったのは作戦のうちだった。相手を油断させ、一気にかたをつけるための偽装だったのだ。
「死なせやしない」
 ライナーはカートに向かって吐き捨てるように言った。
「あんたたちは、仲間のクローン兵を裏切ってまで生き残り、繁栄しようとした。その野望が永久についえたことをかみしめながら、短い一生をまっとうするんだ」
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