BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第5章/いくつもの未来
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「強化人間と最新型M・M・Oの身柄は、すべてディーナ・シー連邦で引き取らせてもらう。といっても、処罰されたり監禁されたりするわけではない。連邦内にとどまるかぎり、原則として自由だ。多少の監視はつくだろうがね」
 ユージン・メリエスの船に回収されたミハイルたちは、戦いの疲れを癒すより先に、作戦の首尾について知ることを望んだ。
 ミハイルとライナーとウォン、およびショウの四人は、艦長室で内密にユージンから報告を聞いた。
「カートたちの頼みの綱だった救援船はすべて拿捕、航行記録から彼らの本拠もすぐに割り出せた。今、我々の艦隊の一部が、そちらへ向かっているところだ」
「これだけ堂々と乗りこんで、あとで政治問題に発展する心配はないのか?」
 ミハイルの問いに、ユージンはすました顔で答えた。
「我々は、我々の船を破壊した犯人一味を追ってきただけだ。メリア共和国政府は、犯人の引き渡しに快く応じてくれた」
「その犯人というのは、私のことか」
 ミハイルがむっつり言うと、ユージンは当然という顔をしてみせた。
「犯人は、処分を逃れて生き延びていた強化人間たちのグループだった。我々は、メリア共和国政府と協力し、彼らのテロ行為による被害を最小限に食いとめたのだ」
「それで? 私もいっしょに逮捕されるわけか?」
「そのとおり。君はほかの強化人間たちとともにディーナ・シーへ連行され、そして永久にこの宇宙から消息を絶つ。数日の間に、ミハイル・グローモワという人物の死亡届が提出されるだろう」
 一同の間に緊張が走った。ライナーが剣呑な目つきをして進み出ようとしたが、ミハイルは彼の腕をつかんで押しとどめた。
 ユージンが畳みかけるように言った。
「君の処分が決定されたと言ったら、どうする?」
 ミハイルは顔色を変えなかった。
「試すような真似はやめてくれ。これは公正な取引だったはずだ。解放と引き換えに私たちはあなたのスパイになり、約束を果たした。私はあなたのことはよく知らないが、成立した取引を反故にするような人間ではないと思っている」
 するとユージンはいきなり破顔した。
「信用してもらえてうれしいよ、グローモワ博士。では、まわりくどい言い方はやめて単刀直入に言おう。――残念ながら、ミハイル・グローモワという強化人間の存在は、多くの人間に知られてしまっている。我々は、君の安全と自由のために、ミハイル・グローモワを死んだことにして、君に連邦市民としての新しい籍を与えるつもりだ。また、今回の件で君の味方となったM・M・Oたちにも、同様に市民権を与えよう」
「親切めいたことを言って、その実は、単に俺たちを目の届くところに置いておきたいだけじゃないのか?」
 ライナーが痛烈に批判した。
「強化人間と最新型M・M・Oを手元に集めて、はたしてあんたたちがそれを悪用しないままでいるか、大いに疑問だ。仮にあんた自身は信用できるとして、ほかの誰かがよからぬことを考えないという保証はあるのか?」
「その点については安心してくれていい」
 ユージンはおもしろそうに目を細めてライナーを見つめた。
「我々は、強化人間にも最新型M・M・Oにも興味はない。そんなものの力を借りずとも、我々は充分に強大だ。彼らを連邦へ連れていくのは、純粋に、彼らをほかの利欲から守るためでしかない」
「だがそれは、あくまであんた個人の見解だろう?」
 ライナーが食いさがると、ユージンはふたたびまじめな表情になった。
「そう。確かにこれは、私個人の見解にすぎない。現実には、どこの世界にも愚かなことを考える者はいる。そういった者たちに隙を見せず、よりよい秩序を維持していくのは、我々――君たちも含めた、我々の役目だ。……先ほど届いた新しい報告によると、カート・ボイドとイリヤ・ウォルハイムは重病に冒されていて、もって二、三年の命だということが明らかになったそうだ。皮肉なことに、強化人間としての能力を失ってしまった者のほうが、より健康体に近いという。彼らにはもう未来は残されていないし、彼らを悪用しようとする者にとっては、無価値も同然というわけだ」
 最後にユージンは言った。
「グローモワ博士。君を連邦に迎えるにあたって一つ提案がある。――何の後ろ盾もない一人の移民としてではなく、私の養子として籍を入れないか? いや、君を監視しようというわけではない。私は個人的に、我々連邦が君に対して行なったことの償いをしたいと考えている。君について、私は何らかの責任を持ちたいのだ」
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