平和で満ち足りた日々が続いた。
ミハイルは研究室で一日の大半を過ごし、ほかの三人ともじきにうちとけた。自分の部屋に戻れば、忠実なウォン・シェイが、あれこれと身の回りの世話を焼き、夜の相手も務めてくれる。
気がかりといえば、官能細胞暴走の後遺症で、リハビリのため隔離されているというライナー――ミハイル‐Hのことぐらいだった。だがそれも、数日後には面会が許可されるという話だ。
ディーナ・シー連邦のユージン・メリエスとの約束も忘れたわけではなかった。こちらについては、事情が複雑で、どうしたものかまだ決めかねている状況だった。
「ミハイル」
腕の中で、ウォンが物問いたげに見上げてくる。
「まだだ」
ミハイルは短く答え、それ以上の会話を制止するようにウォンの唇をふさいだ。
ウォンのボディに、M・M・O特有の発信機能があるかぎり、うかつなことを口にするわけにいかない。何か事を起こす際には、ミハイルはそれを一人で実行する必要があった。それでも、ウォンの存在は心強い。
緑色の双眸を見つめ、飴色の髪をやさしく撫でる。
「ここへ無事に戻ってきたからには、もう君には、これ以上私といっしょにいなければならない理由はない。もし君が望むなら、前の主人のもとに戻って――」
「悪い冗談はやめてくれ」
ウォンは硬い口調で遮った。
「そう簡単に何度も主人を変えられるものか。それに私は、デイル・ホークスのもとになど戻る気はない。私の主人はあなた一人だ。……それともあなたは、私がもう不要になったのか?」
急に不安に駆られたように、ウォンは視線を揺らした。
ミハイルは慌てて彼を抱きしめ、こめかみにくりかえし唇を押しあてた。
「違う、違う、そういうことじゃない。私には君が必要だ。君にはそばにいてほしい。ただそれが、私のわがままでしかないのかもしれないと、不安になっただけだ」
「思い違いもいいところだ」
ウォンは怒ったようにミハイルの髪をつかんだ。
「私にはあなたしかいないのに。あなたがいなければ、私は生きていくこともできない」
保護欲がミハイルの体に穏やかな火をつけた。ミハイルはウォンを抱き寄せ、いつくしむようにその全身を撫でさすった。
たちまちウォンの体にも火がともる。
二人はいつものように、安らぎを求めて互いの体を静かにむさぼった。