2 − 【01】

 肩に歯を立てられる。何度も。それとわからないほど弱く、つぎには強く。
 肌を合わせながら、昭義はいつも拓見の体を噛んだ。噛んでおいて舌でなぞる。拓見の反応を目で追いながら、少しずつ位置を変えて、飽きずにそれをくりかえす。そうすることに、まるで特別な意味でもあるように。
「……う……ん」
 噛まれながら、同時に胸の蕾を撫でられて、拓見はぞくぞくする快感に身を震わせた。
 首すじにかかる熱い息。のしかかる体の重み。
 それらが急に、ふっと遠くなる。
「……父さん!」
 父が急に、このまま消えてしまうのではないかという不安に駆られて、拓見は昭義の体にしがみついた。
 それが根拠のないものだということは、自分でもわかっていた。だが不安は去らなかった。自分の知らない父。知らなかった父。父はいま、ここにこうして、だれよりも近いところにいるのに、いっしょにいればいるほど二人の距離が遠ざかっていくような気がしてしかたがない。
「……あ……は……ぁあ……」
 武骨な指が拓見の若根をからめとった。すでになかば立ちあがっていたそれは、与えられる愛撫にたちまち硬さを増し、けなげに牡の性を主張する。
 指が後ろの方に潜りこんでも、それが勢いを失うことはもうなかった。快感を覚えたせいで、苦痛と恐怖の記憶は急速に薄れつつあった。黒目がちの二つの目を従順の色に染め、拓見は昭義のために体を開いた。
「う……っ……っ……あ、あぁ……」
 灼熱の肉棒をおさめきったところで、昭義は一息つき、つながった部分をゆっくり指でなぞった。
「んんっ……あ、嫌……」
 露骨すぎる感触に、拓見はわずかに抵抗をみせた。だが昭義が腰の位置をずらすと、それとは比べものにならない疼きが内部から突きあげてきて、すぐに拓見の意識はあらぬ方へ飛ばされてしまった。
「拓見……」
 昭義が上体をかがめ、耳元で名前を呼ぶ。
「……あっ……父さ……ん……」
 昭義の動きとともに疼きが広がり、痺れのような快感となって背すじを駆けのぼった。体内にある昭義の一部がどくどくと脈打っている。押しひろげられた内部に、昭義の熱を感じた。
「あ、あ、あ……父さん……!」
 拓見は感極まって叫んだ。
「行かないで……どこにも行かないで!」
「ここにいる」
 昭義は顔を寄せ、片手で拓見の頭を撫でながら囁いた。
「どこへも行かないよ」
「行かないで……」
 快感の吐息とともに、拓見は潤んだ目で昭義を見つめた。
 昭義がそっと唇をついばむと、その目が安心したように閉じられた。



2013/09/25update

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