佐藤が選んだのは、有名な格闘ゲームだった。拓見ははじめ惨敗続きだったが、少しするとコツを呑みこみ、かなり先まで勝ちすすむことができるようになった。
そうなるとがぜんおもしろい。なにより、暴力で敵を倒していくという直接的なゲーム内容が、いいストレス解消になる。
思った以上にのめりこんでいた拓見は、画面の横に手がかけられるまで、人が近づいてきたことに気づかなかった。
「へえ……あんたもゲームするんだ」
イッコだった。ほかの三人もいっしょだ。
イッコはもう一方の手を拓見の肩に載せ、思わせぶりなしぐさで指を滑らせた。
「いまからスドウさんチ行くんだけど、いっしょに来ない?」
拓見がためらってちらりと目をやると、佐藤は急に臆したような顔になって言った。
「あー……俺、そろそろ帰らないと。今日は親が早く戻ってくるし――」
イッコがにっこり笑った。
佐藤は音を立てて立ちあがると、申し訳なさそうに「じゃあ」と拓見に声をかけて、そそくさと出口へ向かった。
唖然としている拓見に、イッコがこんどは挑発するような視線を向ける。来るの?来ないの?ときいているようなその目に、拓見はゆっくり立ちあがることで答えた。