第3章/運命の手のひら − 【10】

 マリオン・カポンは、本人よりもよほどライナーのことを、セクサロイドの体というものを知っていた。
 表皮への刺激は、どんなものであれ、官能細胞の働きによってすべて快感として認識される。
 やさしい言葉をかけながら、マリオンはライナーの肉体に対しては容赦しなかった。縛りあげ、吊るし、鞭をあて、ときには血を流させてうっとりと見入った。
 がんじがらめに縄をかけられるだけで、ライナーの体には火がついた。全身に縄がくいこみ、少しでも身動きすれば皮膚が強くこすられる。その刺激はまるで幾千の指に愛撫されているようで、体を固定された苦しさとあいまって激烈な快感をもたらした。
「どうだね、気持ちいいだろう?」
 そのライナーに自分の楔を打ち込みながら、マリオンがさもいとおしそうに言う。ライナーは答えない。口いっぱいに、男性セクサロイドの性器をくわえこんでいるからだ。ライナー自身の性器もまた、別のセクサロイドの口におさまっている。
 マリオンはライナーに何一つ強要しようとしなかった。丁寧な言葉遣いも、へりくだった立ち居振る舞いも、その他あらゆる媚びへつらいも求めなかった。過激な責めの数々でさえ、ライナーの同意が得られるまではしようとしなかった。
 そう、ライナーは虐げられることを自ら望んだ。セクサロイドを悦ばせることにかけて、マリオンはまったく天才的だった。彼の手にかかれば、官能細胞を植え付けられていないセクサロイドでさえ、随喜の涙を流すのではないかと思われるくらいだった。
 マリオンにいわせれば、ライナーの調整は念入りかつ無駄がなく、ほとんど芸術の域にあるらしかった。どんなセクサロイドよりも人間らしく、それでいてどんなセクサロイドよりも感じやすく、欲望に忠実で、順応性が高い。
 留守の間、マリオンはライナーに貞操帯をつけた。逃げられないようにつないだうえで、他のセクサロイドたちに彼の世話をするよう言いつけて出ていく。セクサロイドたちは、主人の第一の寵愛がライナーにあることは知っていたが、それによって自分たちが疎かにされることもないとわかっていたので、みな彼に好意的だった。
「この葡萄、おいしかったからあなたの分もとっておいてあげた」
 ダフネが果物の粒をライナーの口に入れ、そのついでに指で口腔内を探った。彼の顔に浮かぶ恍惚の表情を好奇心に満ちた目で見つめ、こんどは葡萄を口移しにして舌まで挿し入れる。ダフネは自分も顔の筋肉を弛緩させ、口を離して官能的な吐息を漏らした。
 するとそれを聞きつけて、他のセクサロイドたちも集まってくる。彼らはてんでにライナーに触れ、彼が顕著な反応を示すと、おもしろがって愛撫を本格的なものに変えた。じきにその場は乱交のるつぼと化し、ライナーはもみくちゃにされながら否応なしにその気にさせられた。だが貞操帯のせいで肝心のところに触れられることはなく、前以上の飢えに苛まれる。
 マリオンがいないときは、たいてい同じような展開になった。セクサロイドたちの遊びに巻き込まれたあげく、高ぶったものをどうすることもできず、ひたすらマリオンの帰りを待ちこがれる。
 気がつくと四六時中、ライナーはマリオンのことばかり考えていた。この一部始終を、デイルたちがどこからか観察しているのだと思い出すこともあったが、何の感慨も浮かばなかった。
「明日はおまえを、私の別荘に連れていこうと思う」
 その晩、いつものようにライナーを責め立てながら、マリオンが思い出したように言った。
「そこでは大勢のお客を招いてすてきなパーティーを開いている。おまえをみんなに見せびらかしてや


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