* * *
「ライナー……!」
ライナーがどういう状態にあるかという説明はあらかじめ受けていた。にもかかわらず、振り向いたライナーはあまりにも記憶の中の彼そのままで、こちらを見て目を見開いたさまも、自分を認めて思い出してくれたのではないかと錯覚するほどだった。
「驚いたな。本当にミハイルシリーズだ」
だが、彼の口から出たのは、ミハイルの期待とはまったく違う言葉だった。
ミハイルはじっと目の前のM・M・Oを見つめた。
飴色の髪、鳶色の瞳、彫りの深い顔に、しなやかな長躯――姿形は、確かに自分の知っているライナー・フォルツだった。だがよく見れば、表情やしぐさが微妙に違う。まるでよく似た双子の兄弟でも見ているような気がした。
「ミハイル・グローモワだ」
ミハイルはぎこちなく右手をさしだした。ライナーはためらわずにその手を握りかえしてきた。
「あいにくライナー・フォルツの記憶はなくて。意識的には、私はミハイルシリーズH一〇〇八五〇七だ」
面会場所はライナーの私室だった。最低限必要なものが一室にまとめられた簡素な個室だ。部屋の前まではウォンが案内してくれたが、今は室内にライナーと二人きりだった。
「グローモワというと、セルゲイ・グローモワと関係があるのか?」
「彼は私の養父だ」
「なるほど……つまり、彼は無断で私のクローニングを行なったというわけだな」
ライナーは物思いにふけるような顔をした。
「彼は健在なのか?」
「数か月前に別れたときは元気だった。今も大学で研究三昧という話だ」
評議会のメンバーがそう言っていた。
「そうか。それは何よりだ」
ライナーは軽くうなずいた。
セルゲイが生前のミハイル‐Hに思いを寄せていたことを思い出し、ミハイルは複雑な気持ちになった。
グローモワと聞いてすぐセルゲイの名を出したということは、ライナー――ミハイル‐Hも、それなりに彼のことを気にかけていたのだろう。今のライナーの記憶にあるのが、自分ではなくセルゲイだというのは、なんとも皮肉な話だった。
「君は、なぜここに来た?」
他人行儀な彼の問いかけに、君に会いに来たと答えるのはためらわれた。ミハイルはかいつまんでこれまでのことを語った。
「残念だったな、君のライナーに会えなくて」
聞き終わると、ライナーは皮肉な笑みを浮かべて言った。
「その代わり、仲間に会うことはできたわけだ。うれしいか?」
仲間と聞いても、ミハイルはすぐにはぴんとこなかった。しばらくしてやっと、評議会の強化人間たちのことを言われているのだとわかった。
そう言われれば確かに彼らは仲間だった。だが、突然知らされたせいか、まだ実感が湧かない。これまでずっと、自分のような人間は世界でたった一人だと思っていた。それが、少数ながら生き延びている者がいて、しかもメリア共和国政府の中枢に潜りこんでいるという。そして彼らは、ミハイルを仲間として歓迎すると言ってくれている。
客観的に考えれば、喜ぶべきことだった。だがミハイルは、自分がそれを喜んでいるかどうかわからなかった。