第5章/いくつもの未来 − 【12】

 ライナー・ミハイル‐Hとミハイル・グローモワが手を結んでから、二人はひんぱんに体をつなげるようになった。
 愛情のためというより、二人が共謀者であり一つ穴の狢であるという確認のためだ。
 主導権を握るのは、いつもライナー・ミハイル‐Hの側だった。ライナーは純粋にミハイルのことを思っていたが、ミハイル‐Hはミハイルを完全には信頼していなかった。そのためミハイル‐Hは、ミハイルにあまり隙を見せたがらなかった。
 ミハイルの上に乗り、自分からは手を出さないよう言い含めておいて、じっくり愛撫する。首筋をなぞり、肩から胸へと包むように撫でながら、乳首に触れると、強靭な筋肉がびくりと震えた。腹部から腰へと手を滑らせ、下腹部に顔をうずめる。
 ミハイルの容姿は、ミハイル‐Hに、いやでもかつての自分の仲間たちのことを思い出させた。命令のもと、同じ戦場を駆けた戦友たち。自分の目の前で、一人、また一人と倒れていった彼ら。
 ふいにこみあげた感情の爆発を、ミハイル‐Hは現在の仲間に対してぶつけた。口に含んだなめらかな肉塊を、唇で締めつけ、きつく吸いあげる。
「……ッ」
 ミハイルは歯を食いしばって体をそらした。行き場のない両手がシーツをまさぐり、寝台の端を握りしめて動きをとめる。
 力を加減して性感に耐えるのがどれほど困難なことか、ミハイル‐Hは自分の経験上充分に承知していた。だがミハイルを見ていると、どうしてもそれを強要したくなってしまう。かつての仲間たちと姿形は同じなのに、平和主義的な価値観に染まり危機感に欠ける彼に対し、いらだちを抑えることができないのだ。
 媚薬成分の入った潤滑剤で肛口をほぐし、ゆっくり自分の体を沈める。しばらくかきまわすうちに、そこはもうたまらなくなっているはずだが、ミハイルは無言で耐える。その強情な自制心が、またミハイル‐Hをいらだたせる。
 ミハイル‐H自身は、かつてに比べ極端に自制がきかないようになっていた。人造生命体のボディに組みこまれることによって、性格が多少変質したのかもしれない。自我や記憶も、データに置き換えられたものがプログラムに従って再生されているだけだ。あるいは、復讐などという穏やかでない意志を持ったのも、そのせいかもしれなかった。
 急にミハイル‐Hはやる気を失った。ライナーに体を明け渡し、隅にうずくまって自己嫌悪に浸る。
 一方、体の全権を握ったライナーは、奔放にミハイルを求めはじめた。
 ミハイルの中で達したあと、体の位置を入れ替えて、ミハイルに激しい愛撫を要求する。
「もっと強く……折れるぐらい抱きしめてくれ」
 セクサロイドとしても仕込まれたライナーは、どちらかといえば被虐的な行為を好んだ。自由を奪われ手ひどい扱いを受けるほど高ぶる彼にとって、ミハイルは格好の相手だった。ミハイルは難なく彼の動きを封じ、傷つけるほどの激しさで長時間にわたって責めつづけることができる。
 ライナーはしばしば、実際に拘束されることも望んだ。縄や枷で縛られることによって、肉体的にも精神的にも快感が倍増する。とくに、ミハイルの手で行なわれるのは格別だった。
 ミハイルは、ライナーに対して服従も忠誠も求めていない。ただ純粋に、ライナーが側にいることを喜んでいる。そんなミハイルに、自らすべてを開き、半ばむりやり自分を支配させることに、ライナーは倒錯的な悦びを見いだしていた。
「あ……っ、いい……!」
 四肢を広げて寝台に縛りつけられ、体の奥深く突き立てられる。内臓をかきまわされるような苦痛の中に、甘い痺れが混じり、徐々に全身へと広がっていく


[2]

[4]BACK [0]INDEX [5]NEXT
[6]読んだよ!(足跡)
[#]TOP
まろやか連載小説 1.41