第2章/星を渡る船 − 【14】

 次の寄港地では、珍しく数日にわたって滞在することになった。たまにはゆっくり羽を伸ばしたいだろうという船長の配慮からだった。
 乗組員たちはみな上機嫌で、船の整備も鼻歌混じりで済ませると、気の合う者同士声をかけあって下船の準備を始めた。
 ライナーにはいつものようにあちこちから誘いの声がかけられた。そのすべてに笑って答えながら、ライナーは誰かを探すようにきょろきょろとあたりを見回していた。その視線がミハイルのそれと重なりあう。
 だが、声をかけようとミハイルが足を踏み出したとき、誰かの手が彼の腕をつかんで引き戻した。
「ミハイル」
 船長のタイチャルとセクサロイド医のヨシムネが並んで立っていた。
「誰も年寄りのことなどかまってくれなくてな。一緒に行ってくれんか」
 タイチャルが言うと、ヨシムネも反対側に回ってきて言い添える。
「ライナーのことは連中に任せておけばいいだろう。今日はまあ、私らにつきあってくれ」
 両脇を老人たちにおさえられながら、未練がましくライナーの姿を目で追うミハイルに、ヨシムネはさらに駄目押しの一言を重ねた。
「それに、船長にボディガードの一人もつけんことにはなあ」
 結局ミハイルは老人たちと行動を共にすることにした。
 行ったのは、貿易港に寄り添うように広がった歓楽街の一角だった。外来者の懐をあてにして賑わう大通りは、つかのまの楽しみを求めて歩く旅人たちと、それを狙う客引きや街娼たちであふれている。
 街全体が巨大な屋根ですっぽり覆われ、昼か夜かもわからない。統一感のないけばけばしい明かり、蜂の羽音のようなざわめき、皮膚を圧迫する熱気……。
 こういう場所に縁のなかったミハイルには、どれもが新鮮で、またどれもがなじめなかった。
 前に来たことがあるのか、それともこういうところはみな同じような構造になっているのか、タイチャルは迷うことなく足を進めていく。かつての負傷のなごりでひきずる足も、ほとんど進行の妨げになっていない。
 と、タイチャルは途中で角を曲がって狭い路地に入った。両側に並ぶ店の看板をひととおり物色してから、一軒を選んで地下へ下りる階段に足をかける。
 ドアが開くと、外とはまた違う音と熱気の洪水がミハイルを襲った。
 赤く薄暗い妖しげな照明。狭いフロアには無秩序にテーブルが並べられ、中央に丸い小さな舞台があった。舞台の上では、七色に変わる脚光に照らされて、二人の女が裸で絡みあいながら踊っている。
「何か飲むかね?」
 壁際の席をとってタイチャルが聞いた。よくわからないので任せると、得体のしれないどろっとした液体が運ばれてくる。
「船乗り御用達のドラッグ・カクテルだ。大丈夫、副作用はない」
 言われて恐る恐る口をつけると、濃厚な香りが口の中に広がり、軽い浮遊感を覚えた。老人たちはあっというまに飲み干し、早くも追加の注文にかかっていた。
「何かお召し上がりになりますか?」
 涼やかな声で聞かれて顔を上げたミハイルは、だがすぐにメニューに視線を落とした。給仕に来ていたのは若い女だったが、ほとんど全裸に近い扇情的な格好だったのだ。
 落ち着いて見てみると、給仕たちはいずれも似たり寄ったりの服装をしていた。身につけているのは申し訳程度の布切れと飾り玉。それもよけいに裸体を強調する役割しか果たしていない。なかには若い男もいる。
 どうやらそういう目的の店であるらしかった。客たちは通りすぎる給仕に声をかけ、手を伸ばして触り、席にひきずりこんで体を撫でまわしたりしている。それに応える給仕たちは、いやな顔ひとつしていない。
「どれ、


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