記事一覧

小心者

全聾の作曲家と言われていた人が、本当はなんとか会話が聞こえるレベルで作曲もしていなかったらしい。
私はその人のCDを買ったこともないし、名前も知らなかったので特に興味は無いが、昔のことを二つ思い出した。

小学生の身体検査の時、生徒は複数の教室を回って検査を受けた。
ある教室に入ると、そこは聴覚の検査だった。
私の後ろに先生が立って「音が聞こえたら、聞こえたほうの手を上げて」と言った。
何の音?
小心者なので聞けずに困っていると、耳に時計をぴったり押しつけられて「これ!この音!聞こえたら手を上げて!」と大声で言った。
時計の音だと言ってくれたらよかったのに。
教室にはいろんな音が聞こえていたんだ。
検査って、質問の意味が分からないとできないね。
でも、私の前にも検査を受けている生徒が複数いるはずだが、先生があの言い方を続けていたのだから、私だけが分からなかったのかな?

駅の券売機がタッチパネル式に変わった時のことである。
私が切符を買っていると、隣に白い杖を持ってサングラスをかけた人が券売機のつるつるパネルをなでて困っているように見えた。
「あっ、手伝わなくては」と思い、横からパネルを覗きこんだ。
その人は、私の方にぱっと顔を向けたので(サングラスだが)目が合ったような気がした。
「え?見えているのかな?もしかしたら私は余計なことを」と少し後ろに下がる。
小心者なので無言になってしまう。
その人は(駅員を探したのか)うろうろした後、私に「切符を買うのを手伝って」と言った。
ほっとして手伝うことができた。

後から考えると、あの人は人の姿はなんとなく分かるけれど小さな数字は見えにくい程度の目の見えにくさだったのかなと思った。
私が駅員ではないことが分かるので頼みにくかったのかもしれない。
でも私も小心者だから、頼んでくれないと手伝えないよ。

最近、盲目の人が杖を使わずに歩いて壁の前で止まれる様子を、テレビで見た。
足音の響き方などで、自分の前に物があることが分かるらしい。
その時の脳の働きを調べると、視覚野が活発に働いていた。
目が見えなくても他の感覚を総動員して視覚イメージはできるということかな。

全聾の作曲家と言われていた人は、濃いサングラスをしていたのだが、イメージを変えるために外したようだ。
外してよかったよ。
耳が悪い人は、目から入る情報がとても必要だから。

コメント一覧