BL◆父の肖像
1 − 10 − * * * 「おっす、成島。おはよー!」 「……っ!」 下駄箱のところで肩を小突かれた拓見は、身内を駆けぬけた疼きに狼狽して立ちすくんだ。 ゆうべの残り火が、体の奥でまだくすぶっている。思い出すと顔がほてった。 「よォ、成島。どうした、しけたツラして」 「おはよーっす!」 口々に声をかけて通りすぎていく級友たちの存在が、ひどく遠くに感じられた。一瞬、自分はこんなところにいていいのだろうかという思いにとらわれる。 「拓見!」 背中をどやしつけられて、拓見ははっと我に返った。見ると、雅俊が心配そうに覗きこんでいる。 「どうした? なんか元気ないぜ?」 拓見は軽く首を振って意識を戻した。 「ああ……ちょっとぼけてただけ。おはよ」 わざとらしく頭を叩きながら靴を履きかえる。 「ところで拓見、今日暇?」 雅俊がいつもの調子で首に手をまわしてきた。 「帰り、本屋寄ってかない? 参考書とか探したいし……」 「あ、そう、そうだね……」 触れられたところから、また疼きが走った。 「今日は……」 「あーっ、マーくん、拓ちゃん、おはよーっ!」 動揺をもてあましているところへ、久美子が勢いよく駆けこんできた。 「そうだ、拓ちゃん、聞いて聞いて! 理科部のハムスターねえ、あれからみんな毛も生えそろって……」 溌剌とした表情が目に痛い。 「ごめん、ちょっと急いでるから」 拓見は慌てたように雅俊の腕を振りほどき、つっかけた上靴を履きなおしながらばたばたと二人から離れた。 「雅俊。やっぱ今日、都合悪い。またこんどな」 逃げるように去っていく拓見を、残された二人は訝しげな顔で見送った。 |