BL◆父の肖像
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 正確には市村は、拓見にというより、拓見の母、美也子にそっくりだった。
 年のころもちょうど同じぐらい――三十五、六といったところか。すっきりと弧を描いた眉に、黒目がちの目。両端の少し上がった、やわらかな口元。男と女という違いこそあったが、それでも二人はよく似ていた。
 最初に見たとき拓見は、母の幽霊が現れたのかと思ったほどだ。だがすぐに別人だということがわかり、ほっとすると同時に残念な気持ちにもなった。
「市村先生! 先生は、成島くんの親戚なんですか?」
 一人の生徒のぶしつけな質問に、市村は初めて拓見の存在に注意を向けた。
「成島くん……? 成島くんて……ああ、君……?」
 市村はすぐに拓見を見つけ、目を丸くして微笑んだ。
「へええ、なるほど、親戚だと思われるのも無理はないかもしれない。でもそんなこと言ったら、迷惑じゃないかな? ねえ、成島くん?」
 いきなりきかれて拓見はどぎまぎした。だが市村は拓見の答えを待たず、一同の顔を見回して言葉を続けた。
「残念ながら、親戚じゃあないと思うよ。先生はS県出身だし、この春初めてこっちへひっこしてきたんだ」
 なあんだとかつまらないとかいう呟きがあちこちで上がり、生徒たちの関心はまたたくまにほかのところへ移っていった。好奇心旺盛な何人かが新たにつぎつぎと質問を浴びせ、結局その時間はほとんど授業にならなかった。
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まろやか連載小説 1.41