BL◆父の肖像
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− 03 −
「はーっ」
 屋上のフェンスにもたれながら、拓見は何度目かの溜め息をついた。
「どうしたんだよ、拓見。さっきから溜め息ばっかついて」
 隣にいた雅俊がうっとうしそうに言った。
「んー……」
 拓見は遠くの景色に目をやったまま、気が乗らない様子で口を開いた。
「ずっと連絡もしないようなすごい喧嘩って、どんなんだろうなあ……」
「あァ?」
 雅俊は大げさに顔をしかめた。
「なんだよ、それ」
「たとえばさあ、雅俊」
 拓見は雅俊の方に顔を向けて言った。
「おまえと僕が喧嘩したとするだろ? そしたらどうする?」
「どうする……ったって……」
 雅俊は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして答えた。
「そりゃ、場合によりけりだろ? まあ、どっちかが謝って終わりだと思うけど」
「それでもすまないって、どういう場合だろう」
「さあ……うーん、すごく大事にしてるものを壊されたとか……ユウジョーに対する裏切り、とか?」
「たとえば?」
「たとえばって……。なんだよ、変なことばっかきいて。だれかと喧嘩でもしたのか?」
 拓見は食いさがった。
「なあ、たとえば? たとえばどういう場合?」
「拓見……」
 雅俊は目を細め、のけぞるような姿勢で拓見を見おろした。
「もしかして……市村先生の話?」
 拓見は傍目にもわかるほど動揺した。
「! ……そ……っ」
「大ピンポーン! ってな?」
 雅俊はわざとらしくおどけてみせた。
「ばぁか。バレバレなんだっつーの。……おまえってば最近、あの先生のことばっか見てるんだもん」
 二の句が継げない拓見に向かって、雅俊は続けた。
「なっ。ここだけの話、おまえと市村先生って、やっぱ何か関係あるんだろう?」
 否定はできなかった。拓見は足元のコンクリートを見つめ、所在なげにフェンスを押したり引いたりした。
「よくわからないけど……」
 独り言のようにつぶやく。
「親父も先生も、何か隠してるんだよな……」
「俺、思うんだけどさ」
 拓見を横目で見ながら、雅俊が言った。
「おまえと先生って、絶対血がつながってるよな。どう見たって他人の空似とは思えないもん。……やっぱ、親戚なんだろ?」
「親戚って……親父の?」
「ばぁか。おばさんのに決まってるだろ」
「母さん?」
 拓見はのろのろと雅俊の方を向いた。
「でも、母さんは天涯孤独だって……」
「っとにばかだなあ。そんなの、嘘に決まってるじゃないか。っていうか、何かわけがあって嘘ついてたんだろ。その……さっき言ってた喧嘩っての? そのせいでさあ……」
「なんで?」
 まだ納得がいかず、拓見は問いかけた。
「なんでそんな嘘を……」
「知るか」
 雅俊は憮然として言った。
「そんなこと、俺にわかるわけないじゃん」
 拓見はしばらく、ぼうっと雅俊の顔を見つめていた。それから言った。
「……うん」
「あーあ」
 雅俊は視線をはずし、両手でフェンスをつかんでがちゃがちゃ鳴らした。
「くそー、もうじき中間テストだよ。やんなっちゃうよなあ、もう」
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